モネ、フィリップスと協定を結んで伊那市活性化事業に
そんな中、モネが、全国の自治体や企業向けに2019年3月、東京で「モネサミット」を開催した。企業間の連携を推進する組織である「モネコンソーシアム」の参画企業として紹介されたフィリップスは、移動クリニックや健康相談サービスをモビリティと組み合わせたヘルスケアサービスのプランを披露した。
医師は病院や診療所にいながら、CASEのC(コネクテッド)を利用し、効率的に遠隔の患者を診療する仕組みとして、MaaSを利用する。いわゆる「医療型MaaS」である。
その発表を聞いた伊那市の関係者が、半月後に東京のフィリップス本社を訪ね、モビリティを使ったオンライン診療の事業化に向けて動き始めた。伊那市はまずモネ、次いでフィリップスと協定を結び、医療型MaaSとして「モバイルクリニック事業」を実施することになった。伊那市は「トヨタ・モビリティ基金」からの助成を受け、一般会計予算に車両や運転手、システムなどに関係する実証委託経費を計上した。
実は、伊那市は、「はこだて未来大学」のベンチャー「未来シェア」と、AI配車システムを使って、ドアtoドアの乗合タクシーを提供するオンデマンド交通事業化の実証実験をすでに二回実施し、2020年4月からは「ぐるっとタクシー」という名称でMaaS事業化している。地域活性化のために最先端の技術を使っていこうという下地が、もともとあったのだ。
「移動する診療所」気になる機能は?
完成した移動診療車「ヘルスケアモビリティ」は、トヨタ・ハイエースの福祉車両を改造した4人乗りである。車内には、医療機関にいる医師と話すためのモニターや折り畳み式の簡易ベッド、机やいすなどがコンパクトに配置され、医療機器は心電図モニター、血糖値や血圧、酸素飽和度の測定器などが搭載されている。後部には、車いすで乗車するためのリフトが備えつけられている。
医師が乗らないことを前提にしているため、計画当初の段階から、高価な医療器械や、申請手続きの必要となる医療施設化は想定していない。医療設備が必要な急性期患者の対応は、ドクターカーや救急車を想定している。高価なクルマを作るよりも、最低限の設備で利便性が高く、複数の医療機関がシェアできるクルマを目指しているのだ。
今回のヘルスケアモビリティで行われる診察は、厚生労働省の2019年7月に改訂された「オンライン診療ガイドライン」に従って行われるが、これまでのオンライン診療と異なるのは、車両に医療スタッフとして看護師などが同乗し、医師の指示に従って患者をフォローする「D(ドクター)toP(患者)withN(看護師)」方式という、オンライン診療ガイドラインに新たに取り入れられた方式を採用した点だ。