4月、特例措置として疾患の制限なく受診できるように
ただし、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、政府は2020年4月に流行期間中のみの特例措置として、オンライン診療を初診から、対象疾患を限定せずに受診できるよう方針を転換した。薬剤師がオンラインで服薬指導し、薬を宅配便などで送ることも可能とした。
厚生労働省は4月末、人員や機材など診療体制の問題から、オンライン診療の対応医療機関として1万施設のリストを公表した。これらの施設の中には、人員や機材などの診療体制の問題から、電話による受診対応施設も多く含まれており、診療の質が保つことができるのか課題となっている。しかし、新型コロナウイルスへの感染を恐れて直接の通院を避けたい患者の利用は急増しており、経営悪化に悩む医療機関にとっても、オンライン診療は有効な対策のひとつとして期待されている。
フィリップスとモネが展開する移動診療車とは
こうした中、この分野に参入したのが、「ナンバーワン・ヘルステックカンパニー」を目指して、ヘルスケア分野で様々な新事業を展開している「フィリップス・ジャパン」(以下、フィリップス)だ。
フィリップスは、単なるオンライン診療ではなく、MaaS時代のヘルスケアモビリティ事業を展開しようとしている。これまで、2019年2月に青森県青森市、2020年1月には山梨県山梨市と、ヘルスケアの観点から「まちづくり」を豊かにしていくことを目指した協定を結び、MaaS事業の立ち上げに取り組んでいる。その第一弾として2019年12月にトヨタとソフトバンクなどの合同会社であるモネ・テクノロジーズ(以下、モネ)と協業して、運用を開始したのが、長野県伊那市の移動診療車「ヘルスケアモビリティ」だ。
伊那市は、面積が667平方km。兵庫県豊岡市や北海道上士幌町と同様に、東京23区よりも広いという広大な市域を持つ。市街地のある伊那盆地は標高約600メートルの高地にあり、東の南アルプス、西の中央アルプスに抱かれて、中山間地が多い。
地方では医師の偏在や不足が課題となっている中で、伊那市が属する「長野県上伊那二次医療圏」は、医師少数県の長野県の中でもさらに医師偏在地域である。病院への移動時間や待ち時間が、遠隔地に住む患者の負担になっている。医師不足で訪問診療も厳しい状況だ。公共交通手段も限定されている中で、高齢のため運転免許の返納を考えざるを得ない人も増えている。