自分の本心がすべて相手に筒抜けになるのではないか。そんな「自在ホンヤク機」の開発が進んでいる。以心伝心、こころが十分に通じ合う状態を作りあげた先の未来社会はどのように変わるのか。ジャーナリストの中村尚樹氏が、最先端の研究開発現場を取材した――。

※本稿は、中村尚樹『最先端の研究者に聞く 日本一わかりやすい2050の未来技術』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

音声認識の概念。ハンズフリー通信。機械翻訳。
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諸問題の根源「コミュニケーション」

「社会が抱える様々な問題の根源は、価値観や生活様式の多様化によるコミュニケーションの齟齬にあると私たちは考えています。そこで、あらゆる場面で人びとのコミュニケーションを支援する『自在ホンヤク機』を開発することで、こころとこころが通じ合う社会の実現を目指したいと考えています」そう語るのは、東北大学大学院生命科学研究科教授の筒井健一郎だ。

ドラえもんのポケットから出てきそうな装置の名前だが、一体どんなものなのだろうか。相手が考えていることが互いのディスプレイ画面に「カタカナで書いてあるし、何となく怪しげな感じを持たれるかもしれませんが……」と穏やかな口調で話し始めた筒井は、その役割を端的に語ってくれた。

「コミュニケーションが難しい人たちの間のやりとりを支援して、いわゆる以心伝心、こころが十分に通じ合う状態を作りあげるのが、代表的な機能です」

漢字で「翻訳」と書くと、異なる言語間で文章を置き換えることになる。しかし自在ホンヤク機で扱う対象は言語に限らず、非言語的なニュアンス、言葉にならない気持ちや思考も含まれる。様々な情報をわかりやすく置き換えて伝達する装置として、カタカナで「ホンヤク」という表記を選んだのだ。