※本稿は、中村尚樹『最先端の研究者に聞く 日本一わかりやすい2050の未来技術』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
自分そっくりのリアルなアンドロイド
人間とロボットが共存する映画のような世界を日本でつくり出そうとしている研究者がいる。大阪大学大学院基礎工学研究科教授で、ロボット工学者として世界的に著名な石黒浩だ。2009年にアメリカで製作されたブルース・
石黒は、モデルとなった人にそっくりの外見を持つロボットを、双子のアンドロイドの意味で、「ジェミノイド」と名づけている。ちなみに人型ロボットの総称が「ヒューマノイド」で、そのなかでも見た目が人間のように作られたものがアンドロイドである。有名人に似せて石黒の製作・監修したアンドロイドは、落語家の桂米朝をモデルにした「米朝アンドロイド」や、タレントのマツコ・デラックスの分身としてテレビ番組で活躍した「マツコロイド」が有名だ。マツコロイドは2015年のグッドデザイン賞を受賞した。埼玉県深谷市の依頼で製作され、2021年に公開された「渋沢栄一アンドロイド」は、渋沢の肖像画が一万円札の図柄に採用されることもあって評判を呼んだ。
相手のしぐさに合わせて、表情豊かに動く
石黒の作るアンドロイドの特徴のひとつは、豊かな表情だ。アンドロイドの体内には空気を使って肌や関節などを動かす電動の駆動装置が多数配置され、まぶたや眼球を細かく動かしたり、オペレーターの話す声に合わせて口もとを動かしたり、息をしたり、さらには相手の発話に応じて様々な相槌をうったりすることで、いかにも人間らしい表情や仕草、振る舞いをすることができる。
一方、ヒューマノイドを機能面で見ると、大きく「自律型」と「遠隔操作型」に分けることができる。前者は搭載されたセンサーで環境を認識し、その結果をロボット自身が解釈して自律的に行動する。
ホンダのASIMO(アシモ)は二足歩行する世界初の自律型ヒューマノイドとして注目を集めた。これに対して後者は、無線やインターネットなどを介してロボットのカメラやセンサーから情報を受け取り、オペレーターが動きを操作する。わかりやすく言えば操り人形である。石黒はどちらの型も開発してきたが、ジェミノイドは、基本は遠隔操作型で、離れた場所にいる人間が操作し、ロボットが発する言葉や仕草で人びとと意思疎通を図る。一口で言えば、コミュニケーションロボットだ。
機能により会話型、非会話(動作)型、会話・動作複合型がある。「サービスロボット」とも呼ばれ、その市場は年々拡大している。