「生きている世界の天才100人」に選出

人間らしいロボットを作るロボット工学と、人間を理解する認知科学を融合させた「アンドロイド・サイエンス」の分野で世界の最先端を走る石黒の取り組みを紹介しよう。

石黒は、ロボットをより人間に近づける研究をする一方、「ロボットは人間社会に参加できるのか?」という問題についての実証実験も繰り返した。工場で働く産業用ロボットではなく、日常生活でサービスを提供するロボットは実現できないだろうか。というのも工場で働くロボットはその用途が明確だから、技術開発の方向性が明確だ。

ところが日常活動型ロボットは、人びとの行動をすべて想定することはできない。そこでロボットのメカやソフトウェア以外にも、人やロボットの行動を認識するセンサーを、ロボットの周囲の環境に多数設置してネットワークを作る必要がある。石黒はロボット演劇プロジェクトを始めたり、小学校や科学館、デパートやショッピングモールなどで、対話型ロボットの実証実験に取り組んだりしている。こうして得られた成果が、半自律型のロボットだ。

つまり、ふだんは自らの判断で行動しながら、人間が時折インターネットで介入して認識行動を助けるシステムを構築したのだ。

ヒューマノイドの様々な可能性

石黒が2021年から開始したのが「遠隔対話ロボットで働く」をテーマに、大阪大学とサイバーエージェントがムーンショットプロジェクトのもとに取り組んだ実証実験だ。その第一弾として、大阪大学の学内保育園で、アバターによる保育サポート事業を実施した。なぜ保育園が選ばれたのかというと、保育士の有効求人倍率が年々増加し、保育をサポートする人材が慢性的に不足しているからだ。実証実験では、73歳から83歳の高齢者5人が離れた場所から「あいさつ運動」に、またコロナ禍で新たな活動の場を探している劇団員など2人が「からだ遊び」や「ロボットへの質問会」などに取り組んだ。

実験で使ったアバターは、言葉に加えて身振りや手振りも使った自然な対話を実現するヴイストン社製の小型会話ロボット「Sota」(以下、ソータ)をベースに、独自に開発したシステムだ。このアバターは高さ28センチで、カメラやマイク、スピーカーのほか、無線装置などを備えている。実験には、サイバーエージェントが大阪大学大学院基礎工学研究科に設定している共同研究講座で開発した遠隔操作ロボットシステムが使われた。

保育園での実証実験。左がSota。
写真提供=大阪大学・サイバーエージェント
保育園での実証実験。左がSota。