コミュニケーションの訓練効果が期待できる

「普通なら、最初の段階からピタッと演技が揃うということはまずないのですが、自在ホンヤク機で支援してあげると、うまく自分たちがシンクロしている感じを全員で持つことができ、美しい演技を早く身につけられるようになります」

自在ホンヤク機の力に頼ると、それなしでは何もできないということにはならないだろうか。

「そうではありません。しばらく使っていると、コミュニケーションの訓練効果があって、もうこの機械要らない、この機械に頼らなくても、人と仲良くできるっていうスキルが身につくはずです」これをさらに進めると、VRやARの技術を融合させて、自在ホンヤク機がないと体験できないような異次元的エンターテインメントの創出も考えられる。

ビジネスパーソンが話をする
写真=iStock.com/emma
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イメージが動画になって出てくる

コミュニケーション障害のある人たちに直近の目標として、筒井が自在ホンヤク機を数年以内に使ってもらいたいと考えている対象が、発達障害の人たちだ。なかでもASD(自閉スペクトラム症)の当事者たちは、相手の表情や視線、身振り手振りなどの意味が理解できなかったり、発話に抑揚がなかったりして、多かれ少なかれコミュニケーションが取りづらいという特徴がある。

心理学では会話をしているときの笑顔とか、うなずきとか、非言語的な情報がスムーズなコミュニケーションを成り立たせるうえで非常に重要だといわれている。

「そういった介入を積極的にしていくことを、考えています」

すでにASDの人たちの協力を得て、自在ホンヤク機のプロトタイプを作るべく、開発作業が始まっている。

「初期の段階では、複雑な言葉を要約して伝える。それから言葉のイメージを、できるだけ画像化して伝えたいと思っています。将来的には例えば何かの作業について、あれとこれをやるというのであれば、そのイメージが動画になって遅くても15秒ぐらいで出てくる。そんなふうにしたいと思います」

発達障害のほかにも、コミュニケーション障害はいろいろある。例えば手足や喉などの筋肉がだんだん動かなくなるALS(筋萎縮性側索硬化症)、あるいは意識は正常なのに、身体が完全にマヒして眼球と瞬き以外、ほとんど動かない「閉じ込め症候群」で苦しんでいる人たちがいる。「脳波には時々刻々と考えていることが表れてきますので、ALS、さらには閉じ込め症候群の方にも使っていただけるようになると思います」