こころをホンヤクする仕組み

では脳や神経からどの程度、こころを読むことができるのだろうか。すでに実用化されているものとしては、自律神経を利用した警察のウソ発見器がある。自律神経には興奮しているときに働く交感神経と、リラックスしているときに働く副交感神経がある。ウソをつくと緊張して交感神経が働き、心拍数が上がったり、手のひらに汗をかいたりする。ウソ発見器は、自分の意思で自律神経をコントロールできないことを利用したものだ。

筒井のプロジェクトでも、まずは緊張と弛緩の自律神経系が計測の対象となる。次に筒井が目をつけたのが、脳内でポジティブな感情の中枢と見られる「側坐核」と、ネガティブな感情の中枢である「扁桃体」だ。いずれも脳の深部にあるが、頭皮に置いた電極で脳波を拾い上げることができれば、その人が喜んでいるのか、あるいはうれしくない気持ちを持っているのか、快・不快のこころの軸が読み取れるようになるだろうと考えている。

様々な立場の人々のシルエット
写真=iStock.com/Ellagrin
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伝えたくないことはストップできるように

確かに自在ホンヤク機が実現すれば、人間関係を円滑にすることができるかもしれない。しかしマイナス面として、自分の本心がすべて相手に筒抜けになってしまう恐れはないだろうか。

「我々のこころって、100%きれいなわけではなくて、伝えたくないイヤな面もあります。我々のグループで考えているのはやはり、こころのなかがみんな透けて見えるようなものを作るのではなく、基本的にはプラスの感情が伝わりやすい、あるいはプラスのこころが生まれやすいような形で使えるようにしたいと思います」

その選択を自分ができるように、自分が伝えたいこと、あるいは伝えたくないことを自分で選ぶことはできないだろうか。

「自分が伝えたいことが伝わるように、逆に伝えたくないことはストップできるようにする。そういった機能は絶対につけないといけないという話はしています」

さらにうがった見方だが、悪意を持った人が他人を騙そうとして、悪意の部分だけを表示されないようにするという使い方をされる可能性はないだろうか。

「犯罪の被害者になることを抑止するような機能も、もちろんつけられたらいいと思います。例えば詐欺の恐れがある場合、相手の人はウソを言っている可能性があるという警告が鳴る機能も必要かもしれないと思います」