通常、国難時には支持率は上がるものだが、日本は例外
こうした支持率上昇の背景には「ラリー・ザ・フラッグ効果」(Rally 'round the flag effect)がある。
これは1970年に政治科学者のジョン・ミューラーが提唱した理論だ。アメリカの歴史において、深刻な危機のたびに政権の支持率が急上昇してきたことから、「国難においては、人々が国旗の下に集結するように、リーダーへの支持が高まる」という結論を導き出した。
例えば、湾岸戦争(1991年)の時にはブッシュ大統領(父)の支持率は59%→89%に、9.11(2001年)時のブッシュ大統領(息子)の支持率は50%→90%へと急騰した。日本でも、2011年の東日本大震災後、菅直人内閣の支持率は一時的に上昇している。
こうした現象は、(1)危機的状況において、国民は極度の不安に陥り→(2)リーダーや政権に自分たちを守ってくれる存在として役割を期待する→(3)愛国的感情が高まる→(4)団結や連帯のシンボルとしてのリーダーの存在感が高まる、といったプロセスをたどる。
たとえばトランプ大統領は、就任以来、「移民」「民主党」「中国」「世界保健機関(WHO)」と次々に仮想敵を作り、支持を集めてきた。「戦い」を演出する方法は、人心を弄する古典的な手法だ。古今東西の指導者たちは、人々の不安や怒り、恐怖を自分の求心力に結びつけてきた。
安倍政権は「究極のKY」だから支持率低下する
実は「非常時」を強調し、支持を呼びかけるレトリックは安倍首相が得意としてきた論法でもある。北朝鮮のミサイル問題や少子化などを「国難」と呼び、野党を「国民と与党の共通の敵」と印象付けることで、自身のリーダーシップをアピールしてきた。
そして今、人類共通の敵に立ち向かうという、真の「国難」にあって、まさにその指導力が問われているが、どういうわけか急速に求心力を失っている。
誠に残念なことである。狡猾な指導者であれば、この危機を支持率上昇の機会として存分に活用し、人心操作にも成功しているだろうが、現政権があえてそうしないのは、ただ単に「できない」からなのだろうか。
第3次世界大戦に匹敵するともいう危機的な状況で、国民は船長不在の航海を余儀なくされている。今回の危機の難しさは、敵であるウイルスは目に見えず、むしろ人々の恐怖や不安という感情との戦いとなっている点にある。
つまり、威嚇や脅しや経済制裁などの「力」が全く役に立たず、これまでのやり方は全く歯が立たないのだ。求められるのは、きめ細かでスピーディーな対策、そして人々の心に寄り添うコミュニケーション力である。
ところが、安倍首相はこれらがからっきし苦手だ。心に寄り添うコミュニケーションができない。英語では空気が読めないことをTone deaf(音痴)、Out of touch(音信不通)と表現するが、寄り添うどころか、逆に神経を逆なでする施策や言動に、国民はあきれ果てている。「なんでわかってくれないの」「これじゃない」。その悲鳴が連日、国中でこだましているように感じられる。