2月29日、安倍晋三首相は新型コロナウイルス対策について初めて記者会見を開いた。その内容をスピーチのプロはどう見たか。コミュニケーションストラテジストの岡本純子氏は「なにが伝えたいのがわからず、国民の不安を煽るだけだった。ニュージーランドやシンガポールの首相とは対照的だ」という――。
2月29日、内閣広報室は安倍内閣総理大臣記者会見をライブ配信
写真=首相官邸YouTubeより
2月29日、内閣広報室は安倍内閣総理大臣記者会見をライブ配信

安倍首相会見は、国民の不安を煽るだけだった

2月29日、安倍晋三首相は新型コロナウイルスの対策について、初めて会見を行った。この「国難」を乗り越えるため、国のトップのスピーチはどうあるべきか。他国の事例を踏まえながら考えたい。

まず、このタイミングで「初の会見」というのが驚きだった。トップがきっちりと直接メッセージを発するというのは危機管理の定石だ。なぜ安倍首相が率先して迅速な情報開示を行わなかったのか。

この間、安倍首相は感染症の専門家や実務家とコミュニケーションを密にとっていたわけでもなかった。1月30日になって「新型コロナウイルス感染症対策本部」が設置されたが、当初の会議時間は10分~15分程度。また夜は懇意にしている評論家や作家、経営者らとの会食を繰り返し、身内の議員の誕生会に出席することもあった。

オフタイムにはしっかり休養を取るというのも重要だ。だが、不眠不休で身を挺して働いている現場はそれをどう受け止めるか。その関心と興味は半径10メートル以内の近しい人々のみ、という印象さえ受ける。

そして国民は完全に取り残されている。マスクはない、除菌スプレーもない、おまけにパニック状態にあるからなのか、トイレットペーパー、ティッシュ、おむつ、生理用品、飲料水なども店頭から消えている。

学校現場は、突然3月2日からの臨時休校を言い渡され、混乱を極めた。休講を告げられて喜ぶ子供も多かったようだが、休みが長引くにつれて「外に出てはいけない」という事態に戸惑っている。しかも友達にしっかりと別れを告げることもないままに、卒業式という一生に一回の晴れの機会も奪われてしまった。親たちは、遊び盛りの子供たちの面倒をどう見ればいいのか途方に暮れ、仕事と育児の両立に悩んでいる。

それだけではない。続々と仕事がキャンセルになり、「自粛」「自粛」と連呼され、一体、これから、どうやって生活を成り立たせればいいのか。国民の間には不安が広がっている……。