高校を中退後に起業、独自の発想と実行力で今も資産5700億円を誇るブランソン会長もまた自ら認めるメモ魔で、「メモ取りをヴァージンの企業文化にした」とし、ブログに次のように記している。
「思いついた途端に、自分の(そしてもっと重要なのは他人の)アイデアを書き記すペンがなかったら、どうなっていたかわからない。……ヴァージングループで最も成功した会社は意外な瞬間に生まれた。我々に自分のメモを見る習慣がなかったら、いずれも実現していなかった」
「ビル・ゲイツのメモの取り方」に関しては、製薬開発会社メドペイスの副社長で神経科学者でもあるジェームス・ヴォルノフ博士が、自身のブログで詳細に解説している。ヴォルノフ博士によれば、紙面を分割して使うゲイツ氏のメモ取りはおそらく「コーネル式」をベースにしたものだという。「コーネル式」はアイビーリーグのコーネル大学のウォーター・ポーク教育学部教授が試験に備える学生向けに、効果的な講義メモの取り方として1940年代に開発したものだが、いまだにメモ取りの王道として多くの大学が学生に推奨している。
基本的には図のように、ノートの各ページの左端から4分の1程度のところに縦線を引き、線の右側にメモを記し、左側にはそのメモについての自分の疑問点などを書く。そして紙面の下5センチ位に余白を設け、そこにはそのページにメモした概要を記す。
ヴォルノフ博士は、自らが「コーネル式」の愛用者で、以前は左端余白に決定事項や行動計画を記していたが、今はゲイツ氏に倣って下部の余白に疑問点をメモして次の会議に備えるようにしたという。博士は、会議中のメモが他の出席者へのパワフルなメッセージになることも強調する。会議に集中しているというシグナルになるからだ。また周囲のメモの取り方で、どの発言が重要視されたかもわかる。
メモは脳の情報処理能力をフル回転させる
メモ取りには脳の記憶を助ける外部記憶保存装置としての効果と脳へのプログラミング(編集情報の入力)効果があるが、重要な利点は後者だというのが多くの研究者の見解だ。つまり、認知科学的に見ればメモの役目は後で思い出しやすくするというだけではない。メモでは見聞きしたすべては書ききれないから、脳はその場で情報処理を強いられる。このため、単なる理解だけではない深い考察が生まれるということなのだ。見聞きした内容をそのまま記すのではなく、自分の言葉にし直すことでこそ、メモの価値は高まる。
米国におけるメモ取りの研究のほとんどは大学生の学習能力アップを目的としたものだが、心理学者のマイケル・フリードマン博士は、ハーバード大学の研究報告「メモ取りに関するメモ」の中で、メモ取りはビジネスマンにとっても意思決定、問題解決、そしてチームワークの効率化に役立つとしている。