アップルは1990年代半ば、倒産寸前に陥った。再建のため呼び戻された創業者のスティーブ・ジョブズはそのとき何をしたか。アップルジャパンでマーケティングコミュニケーションを担った河南順一氏は、「コア事業だけを残し、ほかの事業から撤退する決断をした。レガシーを捨てて変革を求めたことが、復活につながった」と分析する——。

※本稿は河南順一『Think Disruption アップルで学んだ「破壊的イノベーション」の再現性』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

上海のApple Store
写真=iStock.com/hudiemm
※写真はイメージです

ディスラプションの第一歩はレガシーを捨てること

今ほどディスラプション/破壊的イノベーションが注目される時代はありません。AI、IoT、AR、量子コンピュータといった新たなテクノロジーが台頭する歴史的な転換期にいるのです。変革をしない選択は、すなわち衰退を意味します。一方で苦難を避けられないことは、ディスラプションにまつわる冷徹な真理です。

ディスラプションの第一歩はレガシーを捨てることです。レガシーとは、先人が築いた物理的、精神的遺産のことであり、企業活動においては「業界の慣習」「組織の慣習」「ビジネスモデル」など、あらゆるものが該当します。時代後れになった資産。それがレガシーです。

1997年、倒産寸前だったアップルに創業者のスティーブ・ジョブズが復帰したとき、矢継ぎ早に行ったのはまさにレガシーを捨てることでした。スティーブはまず、コンピュータとOSというコア事業だけを残し、それ以外の事業部と製品群を片っ端から切り捨てました。かつてアップルはプリンタ、サーバ、モニタ、デジタルカメラ、アプリケーションソフトウェア、各種アクセサリなど、コンピュータ関連の製品を幅広く扱うメーカーでしたが、それらをバッサリ捨てたのです。