コンシューマ市場から一時撤退を決断

主力のコンピュータ事業も大掛かりな整理が行われました。当時はパーソナルコンピュータの製品ラインだけでも11のプラットフォームがあり、スペックが同じマシンなのに異なる販売チャネルで製品名を変えて販売しているものもありました。それをスティーブはデスクトップとポータブル、プロ向けとコンシューマ向けの4プラットフォームに収斂させ、さらに、不良在庫が大量に発生して立ち行かなくなっていたコンシューマ市場から一時的に撤退することを決断。プロ向けのMacの開発と販売にリソースを集中させたのです。

大半の事業を切り捨てたことは1998年に発売されたiMacの成功に結びつき、その後の長期的成長や冷え切ったパソコン市場の再生につながることになりました。変革には、傷を負う覚悟が必要です。もし、痛みを伴わずに変化を遂げているのであれば、妥協や保身が隠れていることを疑う必要があります。失うものがないようにと考える前に、「最高のもの」を目指して前進しなければなりません。

マーケティングはジョブズ直轄管理に変更

スティーブ復帰後には大幅な組織改革も行われました。特に大きな変化があったのがマーケティングチームの体制です。事業部単位、もしくは国単位のマーケティングチームにかなりの裁量権が与えられていた従来の体制をやめ、本社にワールドワイド・マーケティング・コミュニケーション(WWマーコム)という、「ブランド」「広告」「広報」「イベント」「コラテラル(制作物)」「ウェブ」の6チームからなるグループが新設されたのです。社内のあらゆるマーケティングコミュニケーション活動は、スティーブ直轄チームが一元管理することになりました。

マーケティング活動をWWマーコムチームとして1つに束ねるのは、広告代理店を絞り込むことを意味しています。それまで各国のマーケティング部隊はローカルの広告代理店を起用して独自の広告を作っていましたから、国や製品によって広告のテイストはバラバラ。これではまともなブランド構築ができるわけがありません。