フェスで飛ぶように売れたオリジナルボトル

写真提供=IDENTITY
オリジナルボトル入りの緑茶はイベントでの人気が高い。

立ち上げたばかりの美濃加茂茶舗だが、意外な場所で反響を呼んだ。夏に開催される音楽フェスだ。東京を中心に日本茶が注目されていること、そして美濃加茂という地域性があり、普段は美濃加茂まで足を運ばなければ飲めない希少性からオリジナルボトルが飛ぶように売れ、感度の高い顧客が次々とSNSにアップした。

その結果、複数のフェスやイベントで出店の声がかかるようになり、美濃加茂自体の宣伝につながっていると碇氏は語る。

「美濃加茂市に足を運んでもらうには、私たちの店舗だけではなく複数の店舗が集まり、そこで1日過ごして楽しめるようなエリアにすることが重要です。だからこそまずは『美濃加茂』という名前を売ることで全国の感度が高いクリエイターに興味を持ってもらい、複数のブランドが立ち上がるような素地をつくっていきたい。美濃加茂市に来てもらうのはハードルが高くても、商品があれば私たち自身が人の集まる場所に出向き、名前を売ることができる。自社商品を持つメリットは、プロダクトがメディアになることだと思います」

まだ立ち上げから半年の美濃加茂茶舗だが、自分たちでブランドを持ったことで地域のブランドやクリエイターとコラボというかたちでの接点が増え、人脈が広がったことでイベントコーディネートという新しい仕事の打診も増えたという。東京との人脈に加えて地域に根ざしたつながりができたことで行政から相談を受けるようにもなり、地域の顔役として活躍の幅を広げている。さらに今後ブランド事業や店舗運営が軌道に乗っていけば、地域のブランドの支援にも力を入れていきたいと碇氏は「地域商社」の展望を語る。

点から面へ、モノから体験へ

写真提供=中川政七商店
中川政七商店が主催する工芸の展示会「大日本市」。コンサル先の卸先確保の場としても活用している。

この二社の事例から見えてくるのは、これまで門外不出とされてきた成功のセオリーを他社の支援に活用することで、地域や業界という「面」を強化し、自分たちの事業にも還ってくるという新たな循環のかたちだ。

選択肢が溢れかえっている今、無数のブランドの中から自社を見つけ出し選んでもらうのは至難の技だ。特に中小企業は予算も限られており、大企業に比べて圧倒的に不利な立場にある。しかし、地域や業界で連携し「面」でアプローチできれば、大企業にも負けない集客を実現できる。つまり他社を支援し、「面」を盛り上げることこそが回り回って自社の利益にもつながるのだ。

さらに、今回の二社のように小売とメディア、ブランドとコンサルなど業界同士の垣根が溶けていく背景には、企業の価値が総合的な「体験」によって評価されはじめたという変化がある。『小売再生』著者のダグ・スティーブンス氏は「すべての企業は“体験企業”になる」と指摘しているが、今後はどんな企業も顧客接点すべてをデザインすることが求められる。

たとえば女優のグウィネス・パルトロウが運営するブランドgoop(グープ)はウェルネスをテーマにしたセレクトショップでありながら自社ブランドもつくり、メディアとして発信し、イベントも主催している。

提供したい体験や理想の世界観が先にあり、それを実現するために最適な手法として「小売」「メディア」といった機能を選ぶという試みが日本の各地ではじまっている。小売は単にモノを売る企業ではなく、体験をつくりあげる総合企業になっていく。これまでの実績に縛られず、提供したい体験をベースに事業を組み立てられる企業こそが、次の時代を切り開く鍵となるだろう。

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