「自分にはできない」の突破法は予備校講師が知っている
次に、話がつまらなくなるパターン③です。
聴き手は、そのネタが自分に関係のあることは理解できているが、何らかの理由で「自分には使いこなせない」「自分にはマスターできない」と感じて実行できない場合です。ここは「獲得の壁」に阻まれています。
聴き手にとって、使いこなすこと自体の優先順位が上げにくかったり、あるいは使いこなそうと思っても、それがうまくできなかったりするケースです。自分に関係するということはしっかり理解できているけど、自分のなかに採り込めない……そんな悶々とした、もどかしい状態がこのパターンです。
このパターンでは、「どうにかして、いますぐ自分のなかに採り入れなくちゃ!」——まず、そう聴き手に思わせることがカギとなります。そのためには、採り入れる緊急性や必要性を理解させる説明をできるようになることが課題となります。
場合によっては、ネタを聴き手が自分のものとして吸収し、自分で使いこなせるようになるためのトレーニング・メニューを提案することが必要となります。
じつは予備校講師というのは、ここを集中的に実践しているプロフェッショナル集団なのです。聴き手である生徒が授業内容を自分のものにし、自力で問題を解ける能力を向上させること。すなわち、「獲得の壁」を突破するスキルに長けているのが、予備校講師という職業でもあるのです。
「すでに知っている話」はなるべく避ける
最後は、話がつまらなくなる原因のパターン④です。
このパターンは、聴き手がそのネタをすでにじゅうぶん理解してマスターできている状態です。
聴き手にとってすでに常識で当たり前と感じているネタをそのまま聴かせてしまうと、「つまらない」と感じさせてしまいます。すでに使いこなしているネタは、それ以上に聴き手のなかで深化していくことはないからです。
たとえば、成人にとっての掛け算の九九。すでに使いこなせている計算スキルなのに、わざわざイチからバカ丁寧に説明されたら、退屈に感じるはずです。あるいは何かの講演会で、「高度経済成長が終焉し……」なんて聴かされても、「いつの時代の話だよ!」と、ほとんどの方が思ってしまうでしょう。
聴き手の脳ミソは、自分にとってすでに当たり前のネタを延々と説明されてしまうと、「もう、いいよ!」と悲鳴を上げます。
つまり、このパターンだけは、突破できる「壁」がありません。
ゾーンのなかで「内側への点の移動」を起こす術(すべ)がないのです。点の移動ができないとなると、これまでお話ししてきたように「3つの壁」を突破し、聴き手の知識や関心を深化させてネタをおもしろくする、ということができません。ネタをおもしろくする難易度が、とても高いのです。
このパターンに関しては、「できるかぎり回避する」ことを、私はお勧めしています。ポイントは、こちらが話す前に聴き手の知識レベルや理解度を把握すること。それによって、説明で使う言葉の選択を変えられるかどうかが、この状況を回避するためのカギとなります。