困窮者は和菓子より洋菓子派、ワインよりビール派が多い

③「菓子」「酒・飲料」「調味料」~貧乏な人はビール党でマヨラー~

他の食品区分では下記のような特徴があった。

菓子のジャンル:困窮者は、「和菓子」の摂取量は少なく、「ケーキ類」が多い。
酒・飲料のジャンル:「ウィスキー」や「ワイン」などの洋酒や「お茶」が少ない一方で、「日本酒」「ビール」「コーヒー・ココア」などは平均的な摂取量に達している。
調味料のジャンル:「ソース」「しょうゆ」が少なく、「マヨネーズ」「味噌」が多くなっている。

困窮者は、和菓子より洋菓子派、ワイン好きというよりビール党、またマヨラーが多いといった結果になっているわけであるが、これらが何を意味するかは不明である。しかし、何となく分かるような気もする。

タンパク質、ビタミン、鉄・亜鉛が少ない

「国民健康・栄養調査」では、「栄養摂取状況調査」で調べた食品摂取量のデータから日本食品標準成分表(文部科学省)を使って栄養摂取量に換算した結果を毎年公表している。2014年の調査結果については栄養摂取量についても食料困窮度とのクロス集計を行っている。最後に、その結果の概要を図表4に掲げた。

食料困窮者のカロリー摂取量は成人1人1日当たり1839キロカロリーであり、成人平均の1876キロカロリーを100とすると98、すなわち2%少なくなっている。栄養素の内訳別に見ると、炭水化物や食塩は99とほぼ平均並みの摂取量であるのに対して、タンパク質は96、そのなかでも動物性タンパク質は94とかなり少なくなっている。脂質も97とやや少なくなっている。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/KPS)

困窮者の食事内容はおなかを満たすことに傾斜している点を上で見たが、栄養素的にも、炭水化物に傾斜し、タンパク質や脂質の少ない構成なのである。炭水化物と塩分が相対的に多いという点では、ある意味、昔ながらの日本人の食生活に近いものであるとも言える。

生活困窮者の栄養摂取量をチェックすると、「ビタミン系」については、「ビタミンB1」は平均並みであるが、「ビタミンA」や「ビタミンC」は平均より8%ほども少ないことも分かる。また、「カルシウム」はけっこう摂取しているが「鉄」や「亜鉛」は平均よりやや少ないようだ。

本川裕『なぜ、男子は突然、草食化したのか 統計データが解き明かす日本の変化』(日本経済新聞出版社)

もし、成人の平均的な栄養摂取量が理想的な構成なのだとするとそれぞれの栄養素が少ない分だけ困窮者は栄養不足ということになろう。しかし、一般的な日本人の摂取量平均がむしろ栄養過多だとすると困窮者のほうが適切な栄養摂取である可能性もある。

つまり、栄養摂取量が平均より少ないからと言って栄養不足であるとは限らないのである。現代日本の生活困窮者の栄養摂取状況が果たして健康上どのような問題を抱えているのかについては専門家の判断を待ちたいと思う。

なお、上でふれたように、この調査は、調査日の献立や食材を漏れなく記録するというかなり調査対象者に負担を強いるものである。ということは、食料困窮者ほど調査協力が得にくくなっている可能性がある。

本当の食料困窮者の食事内容は、調査に協力した食料困窮者のここで示した食事内容よりもっと極端な構成となっている可能性が捨てきれないのである。その点も考慮して、ここで紹介したデータを解釈する必要があろう。

本川 裕(ほんかわ・ゆたか)
統計探偵/統計データ分析家
1951年神奈川県生まれ。東京大学農学部農業経済学科、同大学院出身。財団法人国民経済研究協会常務理事研究部長を経て、アルファ社会科学株式会社主席研究員。「社会実情データ図録」サイト主宰。シンクタンクで多くの分野の調査研究に従事。現在は、インターネット・サイトを運営しながら、地域調査等に従事。著作は、『統計データはおもしろい!』(技術評論社 2010年)、『なぜ、男子は突然、草食化したのか――統計データが解き明かす日本の変化』(日経新聞出版社 2019年)など。
(写真=iStock.com)
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