日本の子供の7人に1人が貧困状態にあるという。将来、日本の経済を支えるのは今の子供たち。彼らに投資することは日本の未来に投資することと同義だ。JPモルガン・チェース銀行市場調査本部長の佐々木融氏は社内メールのボランティア募集からプロボノの存在を知り、はじめて「子供の貧困問題」のためのプロボノに参加。そこで見た光景とは――。
JPモルガンのプロボノの様子。経済的に苦しい家庭の高校生の学習支援をする

上野公園の炊き出しボランティアでショックを受ける

J.P.モルガンではボランティアの募集が頻繁に行われており、多くの社員がさまざまな形で参加している。近年では日本でもボランティア活動がさかんになりつつあるが、実は私はこうした活動にあまり関わってこなかった。

弊社では社員ボランティアの募集は全社員メールで行われている。海岸や街の清掃から高齢者、貧困層、障がい者の支援に関するものなど、実にさまざまなボランティア機会が用意されており、社員が自分の都合に応じて参加しやすいよう、平日のものもあれば週末のものもある。その中に上野公園での炊き出しボランティアの募集を見つけた。ちょうど予定の無い週末だったのでこれに申し込み、出かけてみることにした。

まず午前中に向かったのは、倉庫のようなところにある狭いキッチンだった。そこで食材の調理・箱詰めなどをする。そのうえで、お昼から上野公園の路上生活者に食事を配給する。

この豊かな日本、東京で、300人近くの人たちが食事を求めて列を作っている光景はかなりショックだったが、それよりも考えさせられたのは、ボランティア活動に参加している人の顔ぶれだった。ほとんどが、外国人か、または人生のほとんどを海外で過ごした帰国子女。私のような日本で生まれ育った日本人はかなりの少数派であった。

50年の人生で初めて聞いた「プロボノ」という言葉

自分もそうだったので偉そうなことは言えないが、日本人はこうしたボランティア活動にあまり積極的ではないように思える。なぜなのだろう? 労働時間が長過ぎて余裕がないからだろうか。それとも恥ずかしがり屋だからだろうか?

いずれにしても、そうした状況が気になり、もっと積極的に関わってみようと思い立ち、CSRの担当者にJ.P.モルガンが行っている企業責任・フィランソロピー活動について話を聞くため、ミーティングを設定してもらった。

J.P.モルガンは、JPモルガン・チェース財団を通じて、就労支援、スモール・ビジネス支援、金融リテラシー向上につながる取り組みを支援するために2023年までに17.5億ドルを拠出することを約束していると知った。

本社のある米国における最大の取り組みは『Invested in Detroit』である。自動車産業の中心地であったデトロイト市の財政破綻を受け、2014年から立ち上げた支援で、2019年までの5年間に1.5億ドルという大型拠出を約束している。私がボランティア、と聞いて想像するものをはるかに超える規模だった。

このデトロイト支援の話の中で「プロボノ」という言葉がでてきた。デトロイト復興支援では、世界中から選抜された弊社社員がデトロイトのNPOに一定期間出向し、おのおのの経験や知識を用いてその地のインフラ再建や職業訓練等の就労支援、マイノリティの起業支援などを行っている。

つまり「プロボノ」とは、社会人が自らの職業上の専門知識やスキルを活かして行うボランティア活動のことである。プロボノ? 間違いなく私の過去50年間の人生で一度も聞いたことも見たこともない言葉だった。