必要なのは職業上の専門知識より学生時代の知識

炊き出しのボランティアも意義あるものだったが、自分の経験や知識を活かして行うボランティアに私は興味を持った。するとCSR担当者が、「デトロイトとは規模や内容は違うけれど、日本でもプロボノ活動はできますよ」と、ある活動を紹介してくれた。キッズドアというNPO法人が経済的に苦しい家庭の高校生の学習支援を行っているので、市場調査部としてそのサポートをしてみないかと言うのだ。

確かに、われわれは金融市場に関する専門知識を有する集団なので、その分野なら大いに貢献できると思い、早速キッズドアの職員の方とお会いし、どのような形で貢献ができるかを相談してみた。

当初私は高校生に、経済とは何か、為替や株式市場とは何かを教えるということを想定していた。そして、幾つかアイデアを提案してみたが、キッズドアの反応はあまり芳しくなかった。そこで、逆にどのような貢献を望まれているかとお尋ねしたところ、「学校の宿題や試験に向けた勉強を教えてもらえるのが一番助かる」とのことだった。

なるほど、それは確かにそうだろう。高校生も金融経済の知識を持っておくに越したことはないが、その前にまず目先の宿題・試験を乗り越える必要がある。そう考えてみると、われわれ市場調査本部の中には、学生時代に家庭教師のアルバイトをしていた者が何人もいる。こうした同僚を引き連れて、試験前の高校生たちの試験勉強を手伝ったら、喜んでもらえるのではないか、と考えた。

私は早速、高校生たちの試験期間直前の日程を設定し、「J.P.モルガン・デー」と銘打って、何人かの同僚と共に高校生が集まる場所に出かけて行った。夕食を持ち込み、午後6時から夕食を一緒にとり、2時間ほど一緒に勉強をするという企画だ。当初、高校生たちが素直に聞いてくれるか不安だったが、差し入れの夕食をうれしそうに食べる彼らの無邪気な笑顔を見ていると心配は消えていった。

日本の子供の7人に1人が貧困という現実

厚生労働省の調査によると、日本の子供の7人に1人が貧困状態にあるそうだ。保護者一人・子供一人の2人家族の場合は年間173万円以下、3人家族では212万円以下で暮らしている状態だそうだ。現在の日本にそのような貧困状態にある子供が7人に1人もいるなどとはとても信じられなかった。それだけに、そうした家庭の子供はどのような子供なのだろうと、正直実際に会うまではやや緊張していた。

しかし、実際に会ってみると、見ためでは彼らが貧困状態にあるとは全く分からない。一緒に食事をしながら談笑している彼らは、普通の素直で明るい高校生である。ただ、次第に打ち解けてきて、話が進むと彼らの置かれている厳しい状況が少しだけ見えてきた。

まず、皆当たり前のようにアルバイトをしているようだ。学校に行く前に朝早くからコンビニで働き、学校が終わると夜遅くまで居酒屋で、と朝晩かけもちしている子もおり、育ち盛りの彼らがきちんと睡眠をとれているのだろうか、と心配になるほどだった。稼いだお金を家に入れたり、将来の学費のために貯めたりしている子もいる。