なぜ、行方不明の男児を探せたか
スーパーボランティア・尾畠春夫さんは、山口県周防大島町で行方不明となった2歳の男の子藤本理稀(よしき)ちゃんを捜索開始から約30分で発見した当時をこう振り返った。
「小さい子が3日も食ってなくて生きていたのは、水分だけはとっていたということ。水深が浅いところの水ってどうやって飲むかわかる?」
プレジデント誌取材班が「しゃがんで水を手ですくう感じですかね」と答えると、
「それだと、泥が水に混じってしまうんだ」「そういった(水深の)浅いところの水を飲むには、地べたにうつ伏せに寝る。頭は上流に、足は下流のほうに向けて。そうしないとうまく飲めない。だから、それをあの子はきちんとできていたってことだ。すごいことだよ、それは」と話す。
プロの救急部隊が何日間もまったく見つけられなかった子どもを、いとも簡単に発見した。
「経験から幼い子は上に登るというのはわかっていた。でも発見できたのは、私の力は20%ぐらい(しか果たしていない)。あとはお天道さまのおかげ。お天道さまはあのときも私の足元を照らして『ずっとこの道を行きなさい』と私を導いた。少し歩くと『僕、ココ!』という子どもの声が私の耳には聞こえた。本当は聞こえるわけがないはずなのに、五感を研ぎ澄ますことで、自然の風が私の耳まで届けてくれたんだな」
2018年6月28日から7月8日にかけて、台風7号と停滞した前線によって西日本を中心に広い範囲で記録的な大雨が降った。特に広島県の被害は甚大で、土砂崩れなどによる死者は108名(全国で221名)にのぼった。取材時(2018年8月29日)時点でも、困窮している住民が呉市にはいた。多くの県の災害ボランティアが次々と活動を終了する中、呉市では引き続きボランティア募集が実施されていた。尾畠さんは、そんな状況の呉市天応地区で土砂の運び出しなどをしているのだ。