流通戦略としては、スーパーなどの量販店で販売する現在も、安売りの目玉商品になることは少ない。逆に「あのハーゲンダッツが今日は安い」と買い込む消費者は多い。長期保存がきくアイスは「特別な日」まで取っておけるからだ。

アイス支出額は、1世帯で年間1万円近くにも

冒頭でアイスの市場規模を紹介したが、別の調査データも紹介しよう。

コンビニにあるアイス売り場。来店して新商品を知り、購入する消費者も多い=5月17日、筆者撮影

日本アイスクリーム協会のホームページ掲載の資料(総務省「家計調査」)によると、2018年の1世帯当たりのアイスクリーム支出金額(全国平均)は「年間9670円」だった。2014年の同支出額は「年間8006円」だったので、5年で20%、1600円以上も増えた。月別で1000円台を超えるのは6~8月の夏季だが、近年は冬季の支出額も上がっている。

また都道府県庁所在地・政令指定都市で見ると、過去10年で7回首位の石川県金沢市に代わり、今回の調査では静岡県浜松市が首位になった。金沢市の首位陥落を、地元では「冬季に大雪の日が多く、外出機会が減った。特に2月は臨時休業する店が目立った」と指摘する声もある。

ハーゲンダッツが最も売れるのは「12月」

冬季にアイスを食べる「冬アイス」の消費動向は、いずれ紹介したいが、実はハーゲンダッツの売り上げ月別で最も売れるのは盛夏ではない。「12月が最強のブランド」なのだ。

「先ほど話した『大切な人と一緒に食べたい』もそうですが、特に年末年始は、家族や親戚、昔の同級生などが一堂に会する機会が多い時期。そうした時に選んでいただいています」(黒岩氏)

何年か前の取材で「インビジブル・ファミリー(経済的に支え合う家族)」と呼ぶ消費の話を聞いたことがある。例えば、リタイア世代の夫婦2人が来店し、大量に食品を買う。年配夫婦だけで食べるのではない。自宅の冷蔵庫に保存しておくと、子どもの一家が食品を目当てに孫連れで訪ねてくるそうだ。

ハーゲンダッツ日本上陸時に35歳だった人も現在は70歳。それより上の世代は「高級アイス=レディーボーデン」(当時は明治乳業。現在はロッテアイスが販売)だが、今では「高級アイス=ハーゲンダッツ」に変わった。

商品価格はアイスとしては高いが、生ケーキなどに比べれば高くはない。その「手の届くぜいたく」を上質感と新鮮味で上手に訴求するところに、ハーゲンダッツの強みがある。

高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。
(写真提供=ハーゲンダッツ ジャパン)
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