防衛本能を過剰に働かせたばかりに……

確かに、メールのチェックが緩かったのは認める。私が悪い。しかし私は、彼を糾弾するようなことをメールに書いていないのだ。あくまでも「Googleドキュメントに担当講座の日程が書かれていませんが、本当に催されるのですか?」と確認しただけなのである。

しかし「お忙しいなか、講義をお願いさせていただく」立場である弱い自分に対して、講師が上から糾弾してきた……とでも考えたのか、事実関係だけを示すようなテイで、自分には非がないことを強く主張する風情のメールを送ってきたのだ。まるでハリネズミのごとく、自己防衛本能を過剰に働かせすぎているように、私の目には映った。

この場では普通に「Googleドキュメントに記載漏れがありました。メールはお送りしていたのですが、記載漏れの件、申し訳ありません」とだけ返せばよかったのである。いちいち“証拠”を示して、「メールでちゃんと連絡しています」と強調しても、実のところ、あまり意味はない。というのも「中川はメールをあまり見ない」ということが、それまでの付き合いを通じて、すでに先方の関係者の大半に知れ渡っているからである。だからこそ、Googleドキュメントでのスケジュール共有が導入されたのだ。

そもそも、私はまったく怒っていない。また、担当者の名前でメールを検索すれば、彼が過去にキチンと連絡してきたことなどすぐに把握できる。それなのに「私はちゃんと仕事をしている!」「このオッサンはあたかも私が悪いかのように、CCで上司にも伝わる形をとり、指摘してきた!」といった反応をしたのだ。

そして、つまらないアウトプットだらけになる

彼の気持ちは、よくわかる。私だって若いころは「怒られたくない」と身構えて、自身の非を少しでも軽減させたいと考えながら仕事をしていたのだから。そして、そのころの自分の卑屈さを思い出すのだ。

このようなことを述べると「自己防衛のために、事実関係をハッキリさせながらメールを書くのは当たり前だろ」「講師だからってエラソーにしてるんじゃねぇよ」と反論したくなる人もいるかもしれない。ただ、それがあなたの小物っぷりを見事に表している。あなたも所詮は「怒られたくないから仕事をしている」のですね……としか、私は捉えられない。

今回紹介した事例に関しては、「中川は何も問題視していない」「あなたを責める意図はそもそも持っていなかった」「むしろ自分の適当なスケジュール管理に呆れている」という点について、彼に伝わらなかったのが実に残念である。

……というわけで、この運営会社が手がける講座の仕事は辞めることにした。まぁ、そういうもんである。「怒られたくない」ということを業務におけるプライオリティの最上位に据えるような人とは、正直、あまり仕事をしたくないのだ。

何度もいうが、そうなってしまう気持ちはわかる。わかるが、一方で実に情けないとも思う。かくしてこの世には余計な忖度がまかり通り、仕事は自己保身まみれになっていき、つまらないアウトプットだらけになっていくのだろう。

染みついてしまった「怒られたくないから仕事をする」という姿勢はなかなか拭い去れないかもしれない。ただ、その姿勢があなたに不必要な卑屈さをもたらし、結果として仕事の質を下げてしまっているかもしれないことは、意識しておくほうがいい。

【まとめ】今回の「俺がもっとも言いたいこと」
・人は、究極的にはカネを得るために仕事をしている。
・そして、ツラい仕事でも人々が真面目に取り組むのは、上司や取引先などに「怒られたくないから」である。
・気持ちはわかるが、「怒られたくない」という意識を最優先するような人とは一緒に仕事をしたくない。
・「怒られたくないから仕事をする」といった姿勢は、余計な忖度やつまらない自己保身を横行させ、その結果、つまらないアウトプットだらけになる。
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973年東京都生まれ。ネットニュース編集者/PRプランナー。1997年一橋大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ではCC局(現PR戦略局)に配属され、企業のPR業務に携わる。2001年に退社後、雑誌ライター、「TVブロス」編集者などを経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『バカざんまい』など多数。
(写真=iStock.com)
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