東京から広島へ月4日の副業勤務で「年収120万円」
勤務日は週1日、月4日程度。1日の報酬は2万5000円。月収10万円、年収120万円をこの副業で得ることになる。
首都圏から新幹線で来る人もいるので別途交通費と宿泊費が支給される。副業する人は雇用関係ではなく、一般的なセミナーの外部講師と同じ扱いになり、報酬も講師謝礼として支出する「謝金」になる。これだと企業が懸念する二重雇用の心配もない。
採用されたのは女性2人を含む30代から50代の5人。製薬会社、映像製作会社、投資ファンドなどの現役の社員だ。働き始めてから1年、現在それぞれが自らのミッションを持ち、各部署と連携しながら活動している。
その一人、都内の映像製作会社の管理職の野口進一さん(42歳)の応募の動機は、「マーケティングや経営企画、映画のプロデュースなどの経験をしてきましたが、培った経験が最も市民生活に近い行政で活かせるのか試してみたかった」というものだった。市役所での主なミッションは、映画などのロケ誘致やクリエイティブ産業の誘致・新興だ。
野口氏は「市に暮らす人は当たり前の風景にすぎませんが、ロケ地として魅力的な資源があることに改めて驚きました。埋もれた町の魅力や資源を掘り起こし、ロケ地として活用しながら観光資源やクリエイティブな産業の振興につげたい」と意欲を燃やす。これまで市役所内でVRの活用に関する講座や福山市立大学で映像編集に関する講座を開催してきた。さらに人的ネットワークを駆使して首都圏のクリエイティブ事業を展開する会社のサテライトオフィスを福山市に誘致する話も進んでいる。
野口氏の仕事ぶりについて福山市企画財政局の中村啓悟企画政策部長はこう評価する。
「当市はロケ地として使われていますが、その魅力をしっかりと発信できていません。野口さんは、福山を“丸ごと撮影都市”と呼んで戦略的な発信計画に取り組んでいる。また、働きながら休暇をとる候補地としてクリエイティブ系の会社のトライアル誘致も実を結びつつあります」
遠い広島まで遠征「なぜそこまでして副業したいのか?」
とはいっても本業のある身。月に4日勤務とはいいながら本業に支障を来すことはないのか。
「福山市役所勤務には木曜日、金曜日の連日2日ずつ月に4日間をあてています。その分、本業の仕事を固めて処理したり、いない間の引き継ぎをしたりと最初は大変でした。でも、逆に時間に制約があるのでムダな仕事を省いたり、効率を考えて仕事をしたりするようになり、よい意味で割り切れるようになった。意外とできるものだなと実感しています」(野口氏)
じつは野口さんは福山市の副業をきっかけに岩手県の水産加工会社の組織づくりや農業系会社の支援など副業先が広がりつつある。野口さんにとって副業の魅力は何なのか。
「もちろん今の会社でいろんな経験はできますが、それでも一つの組織、一つの文化の中でのキャリアです。副業は自分で選択して違う文化に飛び込むことです。敷かれたレールではなく自分で選んだ自由がある。自由があるからがんばれると思うし、副業を言い訳にすることなく今の会社でもしっかりやろうという気持ちになります。やり始めたときは意識していませんでしたが、今は自由を手に入れた解放感のようなものを感じています」
家族は妻と去年の夏に生まれたばかりの子どもが一人。今は二人三脚で子育てをしているが「副業ができているのは妻のバックアップのおかげ」と感謝する。