所有者なのに融通利かず、子どもは不満

実は、配偶者居住権の実務上のポイントは、まだ何も決まっていない。たとえば、肝心要の配偶者居住権の評価方法についてだが、「法務省の法制審議会のなかで、評価方法について話し合われた経緯はあります。しかし、詳細についてはこれから詰められていくことになります」と高原税理士はいう。

審議会ではいくつか試案が示されており、そのなかでは配偶者の余命年数も勘案されている。高齢になるほど余命年数は減り、評価額も下がる。先ほどの事例でいえば、それだけ配偶者が相続する預金の額は増えるわけだが、逆に子どもの預金の相続分は減ってしまうわけで、水面下で不満を募らせるかもしれない。

また、所有権は子どもたちにあっても、その不動産を売れるかというと、話は別だ。配偶者居住権が付き、実際に配偶者が住み続けている物件を買い取る第三者はまずいない。ということは、せっかく相続しても、売るに売れない“塩漬け”の不動産でしかなくなってしまう。

さらにやっかいなのが、固定資産税の問題である。固定資産税の納税義務者は原則として、その年の1月1日現在の土地、家屋の所有者。ということは、所有権を持つ子どもが固定資産税を納税することになる(図2参照)。実際に住んでいる配偶者に求償する権利は認められそうだが、老親に面と向かって「払ってよ」といえるのか。また、後妻と先妻の子で普段からぎくしゃくした関係だったら、複雑な感情が絡んで「払え」「払わない」のトラブルに発展するかもしれない。

そして忘れてはならないのが、配偶者居住権は譲渡することができないということで、居住権の形で相続した配偶者にも問題が発生する可能性があるのだと曽根さんはいう。

「もともとは夫と子どもの家族全員で暮らしていた家ですから、2階建てであったりして、1人で暮らすには広すぎることが多いのです。相続してすぐはまだしも、やがて体が動かなくなってくると、2階の部屋は使わないし、掃除をするのも億劫ということになってきます。最終的に『老人ホームに入ったほうが楽だわ』となっても、入居の資金が手元にはない。そこで家を売って得たお金を充てようにも配偶者に所有権はなく、居住権も売ることはできず、不自由な生活を続けなければなりません。そうした将来のリスクも考えて、相続時の選択は慎重に行ったほうがいいと考えています」

ただし平良弁護士は、「配偶者居住権は債権の一種とみなされ、放棄することはできます」という。それであれば、所有権を持つ子どもたちと話し合い、配偶者居住権を放棄したうえで家を売却し、そこで得たお金の一部をもらって老人ホームの入居資金に充てることはできそうだ。