各地にゲームセンターを展開するタイトーの代表取締役社長・山田哲は、「進化を怠り、過去のものというイメージが蔓延してしまったゲームセンターを変えるヒントが、現場から得られれば」と、この企画への参加を決めた。

山田は喫茶店マスターの「駒井」として、「他業種にノウハウを学ぶ企画でカメラに密着されている」という設定で、ゲームセンターで働く。普段かけているメガネをはずし、ヒゲとカツラをつけ別人に変装した山田がまず向かったのは、埼玉県の所沢支店。

ここは社内の接客コンテストで常に上位に輝いている店舗だ。そのノウハウをほかの店にどう共有するか、どうすれば働きやすい環境が作れるのかを見たいという。

活気あふれるゲームセンターを支える従業員

「笑顔が硬い」

あいさつ早々、いきなり従業員に注意される山田。「顔が怖い」と言われてしまう始末だ。「常に笑顔を意識して、笑顔を伝染させてください」と指導される。

確かにこの店舗は活気にあふれている。従業員が盛り上げる声が響き、お客さんもみんなが笑顔を見せ、とても雰囲気がいい。ゲームセンターなのだから当たり前と思うかもしれないが、この後に訪れた店舗と比較すると、それが決して当たり前でないとよく分かる。店の雰囲気は従業員が作っているのだ。

従業員たちは、店内清掃中であろうと常にお客さんに気を配っている。たとえば、灰皿を拭く時。灰皿を見ながら拭いていると、お客さんから目を離してしまっていることになる。灰皿自体はほとんど見ずに、拭きながらも周りに気を配ることが大切だと、所沢店のベテラン従業員は「駒井」に教える。

あるいは、両替機。ゲームセンターでは、小銭が必要だ。だから、両替機とゲーム機を行き来する人を見ると、その人がどれだけお金を使ってくれているかが分かる。それを把握しているかどうかで、お客さんの心情にいかに寄り添えるかが変わってくる。そういったひとつひとつの細かな視点が大事になってくるのだ。

接客に失敗する社長、成功するアルバイト

「お客さまと一緒に楽しむのが重要です」

従業員は言う。そしてその言葉通り、クレーンゲームで目的のものをとろうと奮闘するお客さんを見つけては、的確なアドバイスを送りながら応援し、いざとれたら一緒になって喜ぶ。とても楽しそうで、その雰囲気がお店中に伝染していく。「駒井」も同じようにやってみるが、うまくいかない。お客さんはすぐに諦めてゲームを終わろうとしてしまう。すかさず従業員が呼び止めアドバイスをすると、見事成功してしまうのだ。魔法のようだった。

そんな光景を見て山田は言う。

「理屈とか躊躇とか関係なく、あのエネルギーと真面目さは並大抵じゃない」

しかし、この従業員、実は一介のアルバイトだという。社員を目指してはいるものの、「アルバイトから社員になるためには社員の推薦が必要で、競争率も高いから」と語る。これだけ優秀であっても、会社がそれを認めていないも同然なのだ。

それを目の当たりにして山田は「なんらかのサポートを考えなきゃいけない」と考え始めた。「接客をがんばってくれているクルーさんの気持ちに甘えているんじゃないか」と。