※本稿は、エリック・バーカー・著、橘玲・監訳『残酷すぎる成功法則 9割まちがえる「その常識」を科学する』(飛鳥新社)の一部を再編集したものです。
超激務が常識の職場で敢行された実験
経営コンサルティングは、長時間労働と仕事がきついことで有名だ。週84時間労働はざらで、加えて頻繁な出張や絶え間ないメールチェック、そして多くの者が“パワーポイントによる死”(パワーポイント依存の発表が退屈で死んだように眠ること)に悩まされている。
研究者のレスリー・パーロウとジェシカ・ポーターは、考えてみた。
「もし世界最高のコンサルティング会社が突拍子もないことをしたら、何が起こるだろう?」
そこでボストン・コンサルティング・グループに依頼して、社員に完全休養の日(業務関連の電話、メールを禁じる)を定期的に取らせる実験を行った。
なんという発想だろう。同社社員の日ごろの殺人的ペースにしてみたら、それは考えられないことだった。たしかに社員は休みを取っているが、それは「緊急の際――日常茶飯事だった――には、いつでも出勤する」という類いのものだ。完全休養日(パーロウが言うところの「緊急事態のない休み」)は、事実上選択肢になかった。パーロウが最初に依頼した同社の共同経営者は、この申し出を断った。この奇抜な実験を快諾してくれる別のパートナーを見つけるまで、実に半年かかったという。
社員も顧客もハッピーに
被験者になった社員がこの試みを気に入ったのは、想像するに難くない。旧来の休みを取っている社員に比べ、完全休養日を取った社員は「自分の職務に満足している」と答える傾向が23%高く、また、「毎朝会社に行くのが楽しみ」と答える傾向が24%高かった。さまざまな評価基準において、彼らは自分の仕事、人生について以前より満足しており、また、今後も会社にとどまりたいと考える傾向が高かった。
それはそうだろう。休みは気分がいいものだ。だが、結果はそれだけではなかった。完全休養日を取った社員は、「クライアントに以前より良いサービスを提供している」と答える傾向が11%高かった。しかも、このことはクライアントの評価によっても裏づけられた。完全休養を取った社員に対するクライアントの評価は、最低でも通常の社員と同等で、最高の場合には、通常の社員の評価をはるかに上回っていた。