世の中のありとあらゆる「成功ルール」を検証した全米ベストセラー『残酷すぎる成功法則』(飛鳥新社)。日本でも話題を集めている本書の序章「なぜ、『成功する人の条件』を誰もが勘違いしているのか」を、今回プレジデントオンラインに特別掲載します。あなたが「このままではダメ」になる理由とは――。

※本稿は、エリック・バーカー(著)、橘玲(監修、翻訳)、竹中てる実(翻訳)『残酷すぎる成功法則 9割まちがえる「その常識」を科学する』(飛鳥新社)の序章を再編集したものです。

約4800キロを自転車で横断する耐久レース

これまでに2人の選手の命を奪った、危険なレースがある。

代表的なアウトドア雑誌の『アウトサイド』誌が、「間違いなく世界で最も過酷な耐久イベントだ」とまで断言したレース・アクロス・アメリカ(RAAM)のことだ。参加者はサンディエゴからアトランティック・シティに至るアメリカ大陸を自転車で横断し、約4800キロを12日以内に走破しなくてはならない。

エリック・バーカー(著)、橘玲(監修、翻訳)、竹中てる実(翻訳)『残酷すぎる成功法則 9割まちがえる「その常識」を科学する』(飛鳥新社)

なるほど、ツール・ド・フランスみたいなものかと思うと、これがまったく違う。ツール・ド・フランスは1日ごとのステージに分かれ、休息日も設けられているが、RAAMはひとたびスタートすればゴールまでノンストップ。睡眠や食事、休憩のためにペダルから足を離そうものなら、その間にも競争相手に抜かれるかもしれない。そういうわけで選手たちは期間中やむなく、平均3時間の睡眠で長距離レースに耐え抜くしかなくなる。

大会4日目ともなると、どこで休憩を取るかが頭の痛い問題になる。前後の選手とのタイム差はわずか1時間足らず。休憩すれば必ず抜かれるので、慎重な判断を要するのだ。そのうえ休息日がないので、選手の体力は日ごとに衰えていく。苦難に耐えてアメリカ大陸を横断するにつれ、全身の疲労、痛み、睡眠不足は積み重なる一方……。

しかし、無敵の王者にこうした苦労はまったく無縁だ。この大会で前人未踏の5回の優勝を誇るその男、ジュア・ロビックは、たとえば2004年のレースでは、2位を11時間引き離しての圧巻の勝利を飾っている2位がゴールインするまで半日も待たされるレースなんて想像できるだろうか?

史上最強ライダーの一番の強みは「狂気」

世界一過酷なレースで、なぜロビックだけがこれほど圧倒的に強いのか。

天賦の才に恵まれた鉄人だったのだろうか? そんなことはない。ウルトラ耐久レースの選手として、ロビックの体はごくごく平均的だった。

では、最高のトレーナーがついていた? それも違う。友人のウロス・ベレペックはロビックを、とうてい“コーチ不可能な人物”だと断じる。

作家のダニエル・コイルは『ニューヨーク・タイムズ』紙に寄せた記事のなかで、ロビックがレース・アクロス・アメリカ史上最強のライダーになれた一番の強みを分析している。

それはなんと、彼の「狂気」だという。

決してロビックが並外れた選手であることを誇張するための表現ではない。ハンドルを握ると文字通り正気を失う彼を、そのまま説明したまでだ。