職場体験に来た人に厳しく指導をしたら、実は自社の社長だった――。NHKのそんな「ドッキリ番組」が話題を呼んでいる。正体を明かされたとき、多くの従業員はあわてふためくのだが、その様子をみても不思議と嫌な気持ちはしない。ライターの戸部田誠さんが「もっとも幸福なドッキリ」と呼ぶ、この番組の魅力とは――。

社長と知らずに言いたい放題の社員たち

「顔が怖いです」
「歩いてる姿が不審者っぽい」

社員たちが、社長の接客に対し、言いたい放題。それもそのはず、社員たちは言っている相手が社長だとは気づいていないからだ――。

今国会は、「働き方改革」の目玉のひとつである「裁量労働制の対象拡大」をめぐって紛糾していた。

「裁量労働制」とは、実際の労働時間にかかわらず、事前に定めた時間だけ働いたとみなす制度だ。したがって、どんなに短い時間で仕事が終わっても、逆に何時間も長く働いても報酬は一緒。つまり残業代は支払われない。この制度を適用できる業種は限られており、それを拡大しようというのが今回の法案だった。

結局、導入の根拠のひとつとされた「労働時間等総合実態調査」のデータが不適切だったことや、制度が長時間労働を助長するという懸念など、さまざまな問題点が指摘され、ひとまず当初の予定より施行時期を1年遅らせる検討に入っている。「定額働かせ放題」と揶揄する声があがっており、世論の反発も小さくない。この法案には、労働者側に立った視点と当事者意識が欠如している。

イギリス生まれの「社長潜入ドッキリ」番組

そこで、見てほしい番組がある。NHK BSプレミアムで放送されている『覆面リサーチ ボス潜入』だ。

これはイギリスのテレビ局・チャンネル4が生んだ『アンダーカバー・ボス』というリアリティ番組がもとになっている。現在は日本のほか、アメリカ、カナダ、オーストラリア、イスラエルなど、数多くの国で同様のフォーマットを使って番組が制作されている。

日本では、2015年3月28日にパイロット版が放送され、その後16年に第1期、翌年に第2期、18年2月14日から第3期と、シーズンを重ねてきた。

『覆面リサーチ ボス潜入』HPより

番組ではタイトル通り、大手企業のボス=社長や役員が、変装とメイクで素性を隠して自社の店舗等におもむき、実際に現場を体験する。その後、共に働いた従業員を本社に呼んで正体を告白し、現場で出ていた課題の解決策を提示する構成になっている。

日本版ではこれまで、幸楽苑、日本交通、西友、江崎グリコ、ユナイテッド・シネマ、ローソン、東京地下鉄(東京メトロ)、松屋、吉本興業など、さまざまな業種のボスとその現場が登場。第3期は、大手宅配ピザチェーンのドミノ・ピザ、大手ゲーム会社のタイトー、最終回では大手下着メーカー・ワコールが舞台となった。本稿ではタイトーの回(2月21日放送)を例にとり、この「ドッキリ」番組の“気持ちよさ”を読み解いてみたい。