次に向かったのは、溝の口の新店舗だ。ここには、カジノ法案を先取り、カジノ体験ができる最新機器が導入されている。しかし、目標の売り上げに達していない。「どうすれば改善できるのか、見てみたい」という。

実際に店舗を訪れた山田は愕然とした。カジノコーナーにまったくお客さんが入っていないのだ。それどころか、コーナーを気にして横目で見る人すらほとんどいない。従業員は、お客さんに「つまらない」とハッキリ言われたという。

山田が、その従業員に率直にカジノコーナーについて聞くと「中途半端」だという答えが返ってきた。

本当にカジノをやりたい人は海外に行く。カジノのゲームだけをやりたい人はスマホなどにあるカジノを模したゲームで十分だ。そうしたものにない魅力が、このコーナーにはない、と。

一般論として、こうした大金をかけた機械を導入する際、現場の声はほとんど反映されない。幹部が頭の中で算段した売り上げがそのまま目標とされ、現場はそれに縛られる。ユーザーの需要に合致していないものでも、現場は無理やりにでも売り上げを上げなければならない。結果として当然士気は下がり、本来上げられていた売り上げまで減ってしまうという悪循環に陥るケースは少なくないはずだ。だからこそ、経営陣がこうした現場の声に耳を傾けることが大切になってくるのだろう。実際山田は、従業員の率直な言葉に、深く考え込む様子を見せていた。

「業界が危ない」若手店長の言葉に絶句する社長

さらにアメ横にある上野店。ここは古い店舗で老朽化が激しい。「暗い・汚い・怖い」という古いゲームセンターのイメージのままだ。こうした状態だと、お客さんも汚しても平気だし、アルバイトの人たちも隅々までピカピカにしなくても許されるような気になってしまう。

店内も、所沢店とは対照的にまったく盛り上がっていない。何しろ、ゲームセンターにとって稼ぎ頭であるはずのクレーンゲームの前にお客さんが入っていないのだ。店長が店先できぐるみを着て呼び込みをするが、アメ横の喧騒にかき消されてしまう。それでも、経営感覚を持って懸命に努力している店長に山田は光るものを感じていた。だが、その店長の言葉に言葉を失う。

「会社に不満があるわけじゃない。ただアミューズメントの将来、ハッキリ言って業界自体が傾いてきている。他の業界で稼げる仕事があればそっちへも行きたいという気持ちもある」

山田はショックを受ける。彼は、アミューズメント産業は新しい試みによって成長に転じられる産業だと考えていた。それを優秀な現場の社員にハッキリと斜陽産業だと言われたのだ。「若い社員をなんとかしないといけない」と、硬い表情を見せた。