はいはい、たしかにあなたは大丈夫かもしれない。いや、それでもやはり大丈夫とは言い切れない。運転できると叫んでいる酔っぱらいと同じかもしれないから。本人は睡眠不足に気づいていないことが多々あり、そこが油断できないところだ。疲れを感じていないとしても、休息が充分取れていて、最適な状態で働けているとはかぎらない。

6時間睡眠が2週続けば「酩酊状態」に

失礼だが睡眠不足かどうかという自分の判断も、疑ってかかったほうがいい。『ニューヨーク・タイムズ』紙に掲載されたペンシルバニア大学の睡眠研究者、デービッド・ディンジスの研究によると、4時間睡眠が2週間続いた被験者は、疲れているが特に問題ないと回答していた。そこで一連の試験を実施すると、彼らの脳機能はゼリーに近かった。6時間睡眠が2週間続いた被験者の脳は、事実上酩酊状態だった。平均的アメリカ人は何時間眠っているのだろう? ギャロップ調査によると、6.8時間だという。

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なかには、毎晩、短時間の睡眠で平気だという人もいるが、あなたはほぼ確実にその部類ではないだろう。なぜなら、いわゆる「短時間睡眠者(ショートスリーパー)」は人口のわずか1~3%だからだ(この症状を訴えて医師にかかる人はいないので、その実態を把握するのは至難の業だ)。

朝型人間には、病的なまでに元気で動きが速い人がいるが、短時間睡眠者は四六時中そんな感じだ。そうした状態を研究者は「行動活性化している」と言う。短時間睡眠者は、おそらく潜在性軽躁(そう)病(第1章で述べた疾患)、つまり軽度の躁(そう)うつではないかと考えられている。異常ではなく、ただ楽天的で、エネルギーがみなぎっており、感情的に立ち直りが早い。この“障害”は遺伝性で、hDEC2遺伝子の突然変異が関係している。

すなわち、遺伝子異常がなければ、あなたは短時間睡眠者ではない。ただ疲れすぎて、自分がどれほど疲れているかわからなくなっているだけだ。

エリック・バーカー
大人気ブログ“Barking Up The Wrong Tree”の執筆者。脚本家としてウォルト・ディズニー・ピクチャーズ、20世紀フォックスなどハリウッドの映画会社の作品に関わった経歴をもち、『残酷すぎる成功法則 9割まちがえる「その常識」を科学する』は、初の書き下ろしにして全米ベストセラーに。
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