数日後、私たちは再度「無予告」でプリンセスクラブに無予告調査をした。前回「今後もきちんとリスト表に記録をお願いいたします」と言い残したことには意味がある。店長は「どうせバレないだろう」と前回同様に偽造したリスト表を提出することになる。なぜなら、調査後に正しく売上を記録すると、減らしてごまかしていた分の売上が急増することになり、明らかに不自然だからだ。正しい記録をやろうとしてもできないのだ。
この数日で「内観調査」や「張り込み」を行い、執拗に記録を取り続けていた。その正確な数字が、手書きで偽造された紙のリスト表と大きく異なっていたのは言うまでもない。再臨場調査では、数取りデータと偽造されたリスト表の開差をもとに、プリンセスクラブは当局により厳しく追及されることになった。
「現金商売」の脱税金額は大きい
国税庁は毎年、「事業所得を有する者の1件当たりの申告漏れ所得金額が高額な上位10業種」という報道発表を行っている。
これはつまり、法人ではなく個人経営の店舗のことだ。1件当たりの申告漏れ所得金額がダントツで多いのは「キャバレー」「風俗業」で、平均で2000万円を超える申告漏れを指摘されている。風営法の関係で、デリヘルは「許認可」ではなく「届出制」のため、個人経営が多いのだろう。キャバレーはクラブ・バーのことであり前回(「敏腕部長を破滅させた"黒革の手帖"の中身」)ご紹介した通りだ。
素人風俗嬢が増えると、脱税が増える?
デリヘルなどの風俗業はワキが甘いのか、はたまた単に税務署をナメているのかわからないが、彼らの基本が「現金商売」であることが不正額を大きくする原因の一つだろう。クレジットカードの「売上除外(正しい売上を計上しない)」は決済代行業者への調査でバレやすいが、客から店への支払いが現金である場合は記録がなければウソがつきやすい。目の前に現金があれば、人間は手を出してしまうものだ。脱税は「人間性」が出るものだとつくづく思う。
周知の通り、マイナンバー制度が導入された。マイナンバーはすべての国民に個別の管理番号をつけ、それに基づいて社会保障や個人情報の管理などの行政処理を効率的に行おうというものだ。風俗業界では本業を持っていながら副業としてダブルワークしている嬢も多く、導入当初は従事する貴重な人材が逃げてしまうのではないかと懸念があった。実際はどうだったのだろうか?