「素人」は国税当局も補足がむずかしい

マイナンバー導入による人手不足で風俗業界がしぼむかと思いきや、そんなことはまったくなかった。意外かも知れないが、今のところ風俗産業は不景気のあおりも受けず好調だ。どうやら風俗業者で真面目にマイナンバーを運用しているところは少ないようだ。店側はアリバイ会社(ダミー会社が源泉徴収票を発行する)などを活用したり、虚偽のマイナンバーで報告している。あるいはマイナンバーをデリヘル嬢から収集すらしないで、問題が起きたら店の代表者を代えるなどの強硬手段をとっている。

店にとって都合がいいのは、プリンセスクラブのように「素人専門」をウリにした風俗店が人気であり、そこで働く女性たちもほとんどが風俗業未経験のホンモノの素人である点である。プロではない彼女たちは、本業があるかたわらで少しだけ風俗店で働き、おカネが貯まればすぐに辞める。国税当局側からすると、彼女たちの捕捉がむずかしいのだ。デリヘルのような風俗店に普通の女性が増えれば増えるほど、脱税を追及しづらくなるとは、不思議な皮肉である。

佐藤弘幸『富裕層のバレない脱税』(NHK新書)

新刊『富裕層のバレない脱税』では、今回の記事で書いたような風俗店などの現金商売から、宗教法人、富裕層の脱税まで、元国税局員としての経験をもとにさまざまな脱税手法を取り上げている。特に私が所属した国税局資料調査課(通称「リョウチョウ」)は、マルサを超える最強部隊とも称される部署であり、ターゲットは「大口」「悪質」「宗教」「政治家」「国際取引」「富裕層」など調査するのが困難な案件を多く担当した。その経験に基づいた本なので、脱税手法や税務調査に興味のある方は参考にしていただければ幸いだ。

なお、本稿は国家公務員法、税法および税理士法で定める守秘義務に配慮するため、一部創作を含んでいる。悪しからずご了承いただきたい。

 
佐藤 弘幸(さとう・ひろゆき)
元東京国税局・税理士
1967年生まれ。プリエミネンス税務戦略事務所代表。税理士。東京国税局課税第一部課税総括課、電子商取引専門調査チーム、統括国税実査官(情報担当)、課税第二部資料調査第二課、同部第三課に勤務。主として大口、悪質、困難、海外、宗教、電子商取引事案の税務調査を担当。2011年、東京国税局主査で退官。著書に『国税局資料調査課』(扶桑社)、『税金亡命』(ダイヤモンド社)がある。
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