商品はすべて買い上げ方式で
【田原】ブランドができてからはどうでしたか。
【矢島】ブランドが立ち上がって半年後に、伊勢丹新宿店から「aeru」の商品を扱いたいとご連絡をいただきました。私たちの想いを一度すべてお伝えし、ご理解いただけるならぜひご一緒したいということで、いまもお取扱いしていただいています。その後も、いろいろな百貨店からご連絡をいただき、共感してくださった方とご一緒しています。
【田原】じゃ、順調に伸びたわけだ。
【矢島】はい。でも、急に伸びたせいで経営が危なくなった時期がありました。私たちは職人さんから商品をすべて買い上げたうえで販売します。順調に伸びているので発注を増やしたのですが、売上が入ってくるタイミングとズレがあって、職人さんたちへお支払いする代金を支払えなくなりました。いわゆる黒字倒産寸前です。電話して事情を話したら、職人さんは「『和える』は伝統産業界にとって光になっていくはずだから、1カ月くらい問題ない」といって逆に励ましてくださいました。本当にありがたい話です。
【田原】ビジネスとしては、買い取りよりも、注文を受けてから職人さんに発注したほうがリスクは少ないでしょう。どうしてそうしなかったのですか。
【矢島】赤ちゃんのご両親なら出産予定日がわかっているので、事前に注文いただけるかもしれません。でも、知人のお子さんの出産祝いを何週間も前から準備する人はほとんどいません。注文いただいたときにすぐお渡しするには、私たちが在庫を持つしかない。それに、職人さんたちのために早く現金で支払ったほうがいいという考えがありました。一般の小売は買い取りが標準的です。伝統産業品でも、普通のことを普通にやろうという感覚でした。
【田原】黒字倒産の危機を乗り越えて、実店舗もオープンされました。まさにこの店がそうなんですよね。
【矢島】2014年7月に、ここ東京目黒に1店舗目となる「aeru meguro」を開きました。コンセプトは、「和えるくんのお家」。店長はホストマザー、スタッフはホストシスター。おうちにようこそという想いでみなさまをお迎えしています。2店舗目「aeru gojo」は京都で、2015年11月にオープンしました。こちらは、「和えるくんのおじいちゃん、おばあちゃんのお家」というコンセプトです。
社会への貢献度を伝えるインパクトレポート
【田原】いま、売上や従業員数はどれくらいですか。
【矢島】従業員は7人です。売上は、まだ公開していません。でも、そのかわりにインパクトレポートをつくって公開することを検討中です。
【田原】インパクトレポート? 初耳です。何ですか、それは。
【矢島】企業の社会に対する貢献度は、従業員数や売上だけで測れません。たとえば田原さんが知人のご出産祝いに「aeru」の産着を贈ってくださったとします。そうすると、田原さんと赤ちゃんの2人にまず伝統産業を知っていただけますよね。さらに、産着を着た様子を見ているご両親、両家のおじいいちゃん・おばあちゃん、おじさん・おばさんなどを加えれば、10人以上に伝統を伝えられる。これはいままで表に現れませんでしたが、確実に社会にインパクトを与えているはずです。市場側だけではありません。「aeru」の商品が売れると、職人さんのお仕事が増え、雇用につながるかもしれない。そうしたところまで含めて和えるくんが社会に与えているものを数値化して、レポーティングするのです。
【田原】それはおもしろい。実際、「aeru」の仕事が増えて雇用を増やしたところもあるのですか。
【矢島】はい。伝統産業はファミリービジネスがほとんどです。でも、一人と二人では効率がまったく違います。また、数が増えると技術が磨かれて、商品のクオリティが高まります。私たちはいま40社とお付き合いがありますが、嬉しいことに、新たに人を雇い始めたという会社がいくつか出てきました。
【田原】伝統産業は地方に多いから、雇用が増えれば地方創生だ。
【矢島】地方は雇用が少ないので、私たちが都会で直接雇用する以上のインパクトを社会に与えられると思います。みなさんの購買行動は、日本の未来を決める投票行動のようなもの。みなさんにそのことも伝えられるように、インパクトレポートを出したいなと。