部下を育てないプレイングマネジャーが生まれる理由
ところが、プレイングマネジャーのように、プレーヤーとして上司と部下が同じ土俵で対抗する部分があると、組織内の位置関係に対する誤解を促進させ、以下のような事象が起きてしまう。
◆自分より上司の力量が下と感じている部下は上司の指示をきかなくなる
◆上司も部下に特定のテーマで勝たないといけないと考え、本来管理職として期待される役割を果たさなくなる
部下が値踏みすることそのものを制御することはできない。指示をきかない部下は、“このテーマでは、勝っているから従わない”“このテーマでは、負けているから従う”というように特定のテーマに関する個人の力量の大小によって、指示を取捨選択できると勘違いしているからだ。では、どうすればよいか。
上司は、組織を勝利に導く責任を負い、その責任に付随して、組織運営上、必要なルールを設定する権限を持っている。ルールを決定し、それを明確に示し、組織の一員として、当たり前にルールを遵守するという状況を作る。遵守しない場合、上司として指摘する。このように、「ルールに従う」という状況を作れば、「指示を選択する・指示に従わない」という思考にはならない。
一方、上司が「営業力で部下に勝ち続けないと上司でいられない」という錯覚状態にある時、成長してくる部下たちは、「自組織の達成をともに追う構成員」から「自身のポジションを脅かすライバル」になり変わる。この状態においては、上司に十分な育成目標を果たす動機は生まれない。“部下に負けてはならない”という背景がある中で、プレイングマネジャー制を運用すると、「育成しない上司」ができ上がる。
さらに、昇格の判断は、これらのテーマで上回ったからこそ抜擢されているというケースがほとんど。上司も慣れない管理業務や育成業務でリーダーシップを発揮し、組織をまとめていくよりも、昇格前のポジションにおける「勝ってきたテーマ」で部下の上を行く方が圧倒的に楽なのだ。つまり、上司として高い位置から遠くを見据え、組織の勝利のために必要な問題の発見、解決への行動が起きず、自身がプレーヤー時代に行っていたこれまで通りの行動を継続してしまう。