部下が「指示通り」に仕事を進めてくれない。一体なぜなのか。農業研究者で『自分の頭で考えて動く部下の育て方 上司1年生の教科書』の著書がある篠原信さんは「部下は『指示通りにやっているか』を見てくる監視の目が怖いのだろう。手元の作業よりも上司の視線や顔色ばかりに意識が集中し、どうすればよいのかを考える余裕を失っているのだ」という――。
オフィスのミーティングテーブルで資料を並べて見ながら相談するスーツ男性2人
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失敗すると「すみません!」とパニックになる新人

最近、「指示待ち人間はまだいい、指示通りにさえできない人間が多くて困る」という声を聞くようになった。指示通りにできない人間はその人間の責任であって、上司の責任ではない、と考えての発言なのかな、と思う。もちろん、その通りのケースもあるだろう。けれど、「指示通りにできない人間」を、上司が作ってしまっているケースが少なくないのではないか、という気がしている。

私の職場に来たばかりの新人で、失敗したら「ああ! すみません! どうしよう!」とパニックになってしまう人がいた。もしこのパニックをそのままにして私が次々に指示を出したり「ここはこうするってさっき教えたでしょ!」と厳しめの言葉で教えたりしたら、恐らくその人は「指示通りにできない人間」になってしまうだろう。私の指示も耳に入らないくらいにパニックになってしまうからだ。

上司の視線が気になって失敗してしまう

私自身も経験があるけれど、上司にジ~ッと作業を見つめられると、手元の作業よりも上司の視線の方が気になってしまう。そのため、手元がおろそかになり、失敗してしまう。すると上司からすかさず「そうじゃない! さっき教えただろ! こうだよ、こう!」と、厳しい叱責がくる。

そうなると、「どうしよう、叱られた、どうしよう、もう叱られたくない」という強迫観念で頭がいっぱいになり、手元の作業ではなく上司の視線にますます意識がフォーカスしてしまう。指示内容も手元の作業もみんな頭に入らなくなり、上司の視線にばかり意識が集中して、もはや自分が何をやっているのかもわからなくなってしまう。これが「指示通りにできない人間」の状態のように思う。何を隠そう、中学生くらいまでの私がこれだった。

私の父は「カンテキ」というあだ名がつけられるほど、短気だった。短気なうえに指示があいまいだから、いったい何をしろと言われたのかわからない。で、一応言葉の字面通りの作業にとりかかったら「ちがーう!」という怒鳴り声が来て、パニック。「こうしろって言ったろ!」というその指示もあいまいで、一応言われた通りにしてみても「ちがーう!」。もう、頭真っ白。