「誘われて、つい……」「2軒行った……」

イソップ物語の「北風と太陽」と似ているのではないでしょうか。こちらが一方的に喋り続けて、その勢いに任せて相手にコートを脱がせようとしなくても、じっくり話を聞いて、間をあけていると、上着を1枚脱ぎながら向こうから「では――」と切り出してくる。

どうしても世間話をするしかないようなとき、ですか? 私がいちばん苦手なシーンですね(笑)。たとえば、相手が犬や猫などのペットを飼っていると知っていたら、ペットについて話してみますね。「元気ですか」と。確実に興味を示してくれる話題でしょう。犬や猫が好きな人にその話をするのは百発百中です。つまらないことを言ったら、ややこしくなるだけですからね。ときには、そのような話題で打ち解けていかなければいけないこともあります。

自分からはあまり多くを語らないほうがいい、ということは、家庭にもあるのではないでしょうか。たとえば、奥さんに対しても。帰宅が遅くなった翌朝、「ゆうべ、どこへ行ってたの?」と聞かれて、「ちょっと飲みに行った」とだけ答えれば会話はおしまいなのに、「会社の同僚と……」「誘われて、つい……」「2軒行った……」と続けていくうちに、どんどんおかしくなっていく。追及されているわけでもないのに、あれこれ喋って、形勢が怪しくなってくる。やましいところは何もないのに、ついには無要なことを言って墓穴を掘ってしまう。 余計なことを喋らない。間も恐れない。だけど、言うべきは言わせていただきます――。それが私のビジネス上の流儀です。

いろんな問題が起こってお詫びに伺ったとしても、最後には必ず一言「注文をください」とお願いする。たとえ怒られても、そう言わずには帰れない、という姿勢をとってきました。「こんな問題を起こしておいて、注文をくれだなんて、よく言えるな」とさらに怒られても、「どうしたら注文をいただけますか」と訊ねる。「また問題を起こすかもしれないから、しばらく注文はやれない」などと言われる。「その“しばらく”ってどのくらいですか。ひと月ですか、ふた月ですか」と食い下がる。仮に「ふた月だ」と答えたら、「では3カ月目からは必ず注文をくれるんですね」と切り込める。無茶なことだと思われるかもしれませんが、私はそうしてきたし、社員たちにも同じことを求めています。

京セラ社長 山口悟郎
1956年、京都府生まれ。78年同志社大学工学部卒業、京セラ入社。2002年半導体部品国内営業部長、03年執行役員、04年半導体部品統括営業部長、09年執行役員常務、取締役を経て、13年4月より代表取締役社長。
 
(樽谷哲也=構成 森本真哉=撮影)
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