1982年、増田は大阪府枚方市、京阪電鉄枚方駅前のビル五階に喫茶店兼貸しレコード店の「LOFT」という店を開いた。増田は創業時の企画書を今も大切に残している。そこにはこう書かれていた。
〈変革の80年代に、関西最大のベッドタウン枚方市において『カルチュア・コンビニエンス・ストア』の発想で、文化を手軽に楽しめる店として、レコード(レンタル)、生活情報としての書籍、ビデオ(レンタルを含む)等を、駅前の便利な立地で、しかも夜11時までの営業体制、コストをかけないロフトスタイルのインテリア環境で、枚方市の若者に80年代の新しい生活スタイルの情報を提供する拠点としてLIFE INFORMATION CENTER“LOFT”を提供したい〉(原文ママ)
「TSUTAYA」の礎となる店である。

1983年3月24日 枚方駅前に「蔦屋書店」第1号店がオープン。(上)創業時の増田社長と店内の様子。(下)店舗の外観。

【弘兼】なぜ鈴屋では新規事業として受け入れられなかったのでしょうか。

【増田】当時、ファッション業界はイケイケだったので、鈴屋の上司からは「どうしてファッション屋が辛気くさい本屋をしなければならないのだ」と言われた。僕は本屋をやろうとしたわけではないんです。人それぞれ自分が選ぶスタイルがありますよね。「喧嘩の強い男」というスタイルもあるし、「知的な優男」というスタイルもある。そう、「島耕作」というスタイルもある。

【弘兼】生き方や嗜好性のようなものですね。

【増田】そのスタイルを実現するための店が必要だと思った。店に必要なのは、いい音楽やいい映画ではなく、スタイルのある音楽や映画なんです。ユーミンでもミスチルでも矢沢永吉でも、人はそのスタイルに共感する。