弘兼憲史の着眼点

▼「農業」と「観光業」はこれから成長産業になる

『社長 島耕作』では、これから日本を支える産業として「農業」を取り上げました。私はそれに並ぶ産業として、「観光業」が重要だと考えています。

「訪日客」は韓・台・中が半分以上

とにかく日本へ来る観光客が少なすぎます。まずは経済成長が著しい東南アジア諸国の観光ビザを緩和することです。ビザは国の施策ですが、地方自治体にもやれることはあります。たとえば映画のロケの誘致です。

和歌山県では13年、知事がインドを訪問し、ムンバイを州都とするマハラシュトラ州と観光交流に関する覚書を締結しました。ムンバイは「ボリウッド」と呼ばれ、映画制作が盛ん。インド人は映画のロケ地を巡る旅行が好きですから、これから高野山など和歌山への観光客が増えることでしょう。

韓国からも「ロケ地巡り」で日本に来る人が多いですね。秋田のある居酒屋は、ドラマのロケ地になって以来、韓国からの客が絶えないそうです。

日本には四季があり、自然の表情が豊か。加賀屋のある能登などは海も山もある。特に東南アジアにはない冬、雪山は大いにアピールできるはずです。

▼地方発の「食文化」を世界にアピールすべき

景色と並んで日本が推すべきなのは食文化です。寿司やラーメンはすでに世界で知られるようになりました。これらに続く「日本発」の食文化を発信すべきでしょう。これから観光客が増えるにつれて、地方の特産品への人気が高まっていくのではないでしょうか。

石川県で思い出深いのは、特産の「かぶら寿司」。塩漬けのカブとブリを挟み、米麹で漬け込む「なれずし」です。私は2人のおじが金沢大学出身のため、正月によく食べました。子どもの頃は苦手でしたが、日本酒に合わせると最高です。癖のある食べ物ですが、こうした地方の特産品には大きな可能性があるはずです。

加賀屋では石川の名酒「天狗舞」をいただきました。海の幸をつまみに酒を飲む。日本が誇る食文化です。ぜひ世界に広めたいですね。

弘兼憲史(ひろかね・けんし)
1947年、山口県生まれ。早稲田大学法学部を卒業後、松下電器産業(現・パナソニック)勤務を経て、74年に『風薫る』で漫画家デビュー。85年『人間交差点』で第30回小学館漫画賞、91年『課長島耕作』で第15回講談社漫画賞、2003年『黄昏流星群』で日本漫画家協会賞大賞を受賞。07年紫綬褒章受章。
(田崎健太=構成 門間新弥=撮影)
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