かつて観光地として栄えた三重県鳥羽市は、近年観光客が減って厳しい状況が続く。鳥羽の老舗旅館の女将である江崎貴久は、旅館再建の前に鳥羽市そのものを元気にする必要があると地元の魅力を訴求するオリジナルのエコツアーを始めた。いま、その手作りツアーは人気となっている。

鳥羽のつまみ食いツアーが大人気

元気で活躍している旅館女将は全国に多けれど、江崎貴久(きく、41歳)ほど多忙で、地元に愛されている女将は少ないだろう。

江崎は、三重県鳥羽市で明治年間創業の老舗旅館「海月(かいげつ)」の女将である。

三重県鳥羽市の旅館「海月」の女将の江崎貴久さん。エコツアーを企画運営する有限会社「オズ」の社長でもある。

鳥羽はかつて九鬼水軍の軍港であり、海上物流の拠点として江戸時代から繁栄した。真珠王・御木本幸吉の生誕地でもあり、観光地としても賑わったが、近年では観光客が大きく減り、地元経済は厳しい状況だ。

鳥羽市には4つの有人離島と10以上の無人島があり、いまでも漁師や海女が多く、海産物に恵まれた地である。そのため、おいしい魚を食べに訪れる常連客は多い。鳥羽のアワビも有名だが、餌になるアラメという海藻が減ったことで、漁獲量が最盛期の10分の1にまで落ち込んでいる。

江崎は、豊かな観光資源を持つ鳥羽がこのままでは落ち込む一方だという危機感から、有限会社オズを設立、仲間と一緒に参加型・体験型のエコツアーを2000年から企画運営している。ツアーのブランド名は「海島遊民(かいとうゆうみん)くらぶ」である。

「季節ごと、あるいは通年でいろいろなツアーを企画していますが、一番人気は『鳥羽の台所つまみ食いウォーキング』ですね。誰でも参加でき、車いすでも大丈夫です」と江崎は楽しそうに話す。

このツアーは随時開催されており、1人2100円で、鳥羽市内の寿司店やアワビ・サザエなどの専門問屋を巡って、おいしいものをつまみ食いしながら、店や町の人との会話を楽しむ趣向だ。筆者も参加したが、海産物問屋で水槽に飼育されているサザエを見ながら、その1つを刺身にしてもらって堪能した。問屋の対応も手慣れていて、楽しく会話できる。リピート客が多く、2~3カ月ごとにやってくる人もいる。

透明な「シースルーカヤック」に乗って、海の生き物や海草を観察するツアーも人気だ。最低2人からの参加で実施してくれる。

「ツアーに参加した足の不自由な男性のお客さんが大喜びされたときは、見ていた私も感動しました。障害のある人もない人も一緒に楽しんでもらいたいと思っています」

この他、通年では海女小屋で海女さんと会話しながら魚介を焼いてもらう「海女の国スピリチャルツアー」、夏には「無人島たんけんツアー」「ほたる&海ほたる鑑賞とワインを楽しむツアー」など、30種以上ある。