街の中心部に広場付きの市役所を――。森民夫市長の案から、「地域を活性化する建築」をコンセプトにアオーレ長岡のデザインは始まりました。

地域を活性化するには、まずは人が気軽に集まれるような市役所でなければなりません。そこでヒントにしたのが「土間」です。昔の農家には玄関はなく、必ず土間から人が出入りしていた。だから建物がしかめっ面することなく、誰でも入っていきやすかった。こうした考えから、玄関から建物の広場を通り、そこから裏の通りへと続く貫通型の広場としての「ナカドマ」を市役所の軸に据えました。

建築家 隈 研吾氏

構想段階で最も反対意見が多く出た、市役所の1階に議場を置くというアイデアも、市民に開かれたつくりを目指したことの一環です。権威の象徴となる議場は、従来の市役所では最上階に置いていました。でも、市民が権威を見下ろせるほうが距離が近づく。実際のところ、ロンドンの市議会やドイツの連邦議会などは1階にあるのです。

また、同じように内装からも権威的な要素は取り除きたかった。たとえば重厚な石が使われることの多い議場の天井には、地場産の木板を渦巻くように並べました。議場では議員たちの賛同を得るための求心性が必要とされます。それを表現したのです。建物全体の内装に千鳥格子のパターンを用いているのも、軽やかさを生むためですが、これは1枚汚れてもそこだけ張り替えればすむという、質実剛健な長岡らしさでもあります。

市長室と議長室もガラス張りになっています。しかもその両方の部屋が向かい合っている。だから自然にお互いが見合う関係になり、一種の仲間意識が生まれ、その結果、街が楽しく変わっていくのではないか――そんなことを思いながら設計しました。これからの地方創生のキーワードは楽しさ。そうでなければ立ち行かないと思うのです。