「どれほどお客様のために最善を尽くせたか」が重要なのだという。

「たとえば、お客様が『車から異音がする』というのに、調べても異音は認められないし、原因が特定できないケースがあります。それでも、お客様の言うとおりに『異音はある』として対応します」

通勤時に異音がすると言われれば、顧客の通勤時に同乗して調べもする。さらに詳細にチェックして、車の機能・安全性に問題がないことを示すと、「そこまでしてくれて問題がないのなら」と、たいていの顧客は納得してくれる。むしろ、それをきっかけに販売店とメルセデスの熱烈なファンになってくれる顧客も少なくないそうだ。

逆に、それでも納得がいかず、販売店を離れる顧客もいないではない。そういうときも、わが身に問うのは「最善を尽くせたか」だ。

「お客様が離れたら、それはへこみますよ。ああすればよかった、こんな対応はできなかったか。いろいろ思い悩みます。でも、それが大事なんだと思っています。その分、自分の引き出しが増えていくのですから」と大隅さんは言う。

メルセデス・ベンツは高級車。故障しない、非の打ちどころがない完全なものと思い込んでいる人も少なくない。少々のことで声を荒らげて電話してくる顧客もいれば、理不尽な要求をする顧客もいる。内心、ムッとすることもある。

「でも、それを表に出すことはありません。メルセデス・ベンツというブランドを傷つけることになりますから」と大隅さん。「むしろ、電話口で怒鳴りつけてくるお客様のほうがいいですね」とも。

「考えていることがよくわかるので、対応の仕方もはっきりします。経験的に見て、そういうお客様に後々、当店のファンになってくださる方が多いようにも思います」

ブランドの重みを大切にする意識は、従業員すべてが共有している。それゆえか、大隅さんの名刺には「6年連続『全国優秀販売店賞』受賞」の文字がある。メルセデス・ベンツ日本による年間表彰。同販売店の勲章である。
 

(山口典利=撮影)
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