顧客から苦情が入ったらどうするか。信頼を失うか、獲得できるか、大きな分かれ目だ。トップ営業マンの謝罪法を学ぶ。

来日して20年、長期的な利益重視の投資姿勢から「もの言う株主」ならぬ「もの聞く株主」として知られるスコット・キャロン氏。流暢な日本語で謝罪について語ってくれた。

いちごアセットマネジメント社長 スコット・キャロン氏●1964年生まれ。米プリンストン大卒、米スタンフォード大大学院博士。94年に来日、米系証券会社勤務を経て2006年5月から現職。

「私はミスをしたらすぐ謝ります。母国アメリカでは、謝ると訴訟で責任を問われるから危ないぞと言われます。しかしそのアメリカでも、医療現場でミスがあったとき、医者が早めに謝っていれば訴訟を起こされるリスク自体が大幅に減るという研究結果が出ています。世界中のどこでも謝るのは決して悪いことではないと信じています。私は日本に来て、いい意味での『謝り文化』を学びました」

キャロン氏の言う「日本の謝り文化」とは、どんなに些細な失敗でもすぐに認め、心から謝ることだ。そして、償いや改善のための行動が自らに痛みを伴う内容でもきちんと実行する。日本の企業社会でありがちな「頭を下げて謝罪」の実質がそこまで立派なものだとは筆者には思えないが、キャロン氏は日本人より日本人らしくその文化を体現している。

キャロン氏は「金額的な記述ミスはしたことがない」と前置きしつつ、投資家への報告書で小さな計算ミスをしたことを振り返る。

「私たちのほうから失敗を持ち出してお客様に謝りました。先方に指摘される前に謝るのです。世の中にはプライドを気にして謝りたがらない人も多いですね。しかし、早く謝ってしまえば先方と信頼関係を築けるかもしれません。『この人は問題があれば率先して謝って改善してくれるんだ』というサプライズと安心感につながるからです。いかにお客様からの信頼を得るか。資産運用業とは信頼業だと私は思っています」

完璧主義者だと自認するキャロン氏も2008年のリーマンショックを逃れることはできなかった。

「お客様のとても大切な財産を減らしてしまった。本当に申し訳なかったと思っています。言い訳はしません。『100年に一度の危機だから』などとは一切申し上げない。私が先読みできなかったのは事実ですから。全責任は私にあります」