顧客から苦情が入ったらどうするか。信頼を失うか、獲得できるか、大きな分かれ目だ。トップ営業マンの謝罪法を学ぶ。

1914(大正3)年の開業時の姿が復活した東京駅。駅舎に入る東京ステーションホテルも6年半の休業を経て、2012年10月3日に再開業した。その再開に向けて陣頭指揮をとったのが森本航さん。就任時の挨拶がふるっている。

「開業準備は大変ですが、心配しないでください。私が来たからにはもう大丈夫です」

東京ステーションホテル副総支配人(現・ホテルメトロポリタン仙台総支配人) 森本 航氏●東京都立大学卒業後の1992年、JR東日本入社。2011年、東京ステーションホテル開業準備室部長。12年、副総支配人。13年10月現職。

あえて自分を追い込んだのだが、こう言える経験も積んできた。21年前にJR東日本に入社後は、駅の改札係から旅行代理店まで場数を踏み、ホテルも浦安や長野、池袋での経験が豊富。そこで培ったのは相手と対話する際の「人間力」だ。状況に応じて「熱意・創意・誠意を示し、そのバランスが大切」だと語る。

毎日たくさんのお客が行きかい、多様な業種とも取引するホテルは、大小のクレームやトラブルが多い。森本さんも以前いたホテルメトロポリタン池袋時代は、都内屈指の繁華街の客室数800を抱える環境で鍛えられたという。たとえば「お客様のバッグに誤って水をかけてしまった場合、どう対応すればご納得いただけるかといった場数を踏みました」。

いつも心がけるのは「絶対に第一次対応者を叱らないこと」。叱ってしまうと相手が萎縮し、持っている情報が入ってこなくなるからだ。そうではなく「一緒にやろう」と声をかける。そこで出てくる情報の中に解決のヒントが多い。

「バッグの例でも、先方は弁償してほしいのか、もっときちんと謝ってほしいのかは、精査するうちにわかってくるものです」

東京ステーションホテルの利用客の大半は日本人で、なかには90歳を超えるお客もいる。トラブルは少ないというが、それでも失敗はある。相手は取引先だった。

開業前の準備室時代、激しい怒りの電話を受けた。「長年、一緒に仕事をしてきて、休業前は『また、ぜひお願いします』と言いながら何の挨拶もない。失礼じゃないか!」。半世紀以上にわたり取引があった企業の経営者だった。