森本さんに回ってくるのは、現場レベルで対応した後の「責任者を出せ」という段階だ。まず電話のたらい回しを素直に詫びた後で、相手の言い分に耳を傾ける。話を聞き「今さら契約業者になりたいわけではない」こともわかった。後日の面談を決めて受話器を置く。

その後、当時の関係者に話を聞き、休業前の状況も把握しておいた。当日、面会した森本さんは、まず先方を東京駅が見渡せるビルの5階に案内する。再開に向けて準備が進む現状をまず説明した。すると相手の心も解きほぐされ、実際の面談ではホテルの昔話に終始。和らいだ雰囲気で話が終わったという。熱意・創意・誠意を駆使した結果である。

スタッフが常に携行する「使命と行動指針」と、森本氏愛用の名刺入。

「こういう場合、いきなり本筋から入るとうまくいきません。先方の気持ちを汲むためにも、違うアプローチが必要だと考えたのです」。この経験で森本さんは、企業関係者でさえこれほど思い入れをもつ、老舗ホテルの存在の重みを改めて感じたという。

松本清張ら作家の定宿だったことでも知られる同ホテルには、戦前から利用していた顧客もいれば、憧れて利用する若い客もいる。それぞれのお客に対する「場の空気」をどうつくり、心地よく利用していただくか。森本さんは行動力で部下に伝えている。

(的野弘路=撮影)
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