目標ではなく見通しを立てる

仕事に追われてミスが起きたり、プレッシャーから成果を挙げられないなど、心にゆとりがないとよい結果は生まれないイメージがあるが、実際はどうか。佐々木さんに訊いた。

「極度の忙しさや緊張によって仕事のパフォーマンスは落ちるのは確かです。ストレスレベルが高くなるほど頭が真っ白になり、さらに上がると脳は寝ているのと同じ状態になる。仕事によい影響はないでしょう。ただし、ストレスがなにもなければいいかというと、決してそうではありません。パフォーマンスが最も高くなるのは、ほどよい緊張感があるとき。これはヤーキーズ=ドッドソンの法則といって生理心理学の基本法則として知られています」

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「ほどよい緊張感がいい結果を生む」(出所=『できる人は感情の整理がうまい!』佐々木正悟著 写真=GettyImages)

なぜ、このようなことが起こるのか。西多さんはこう説明する。

「人間は得てして大事なことほど後回しにし、どうでもいいことに手をつける。これは“回避行動”という人間の深層心理です。ところが、状況が切迫すると『間に合わなかったらどうしよう』と不安や緊張が生じて、ノルアドレナリンという神経伝達物質が活発化する。このノルアドレナリンは喜びを司るドーパミンを間接的に活性化させますから、意欲や集中力が高まって、パフォーマンスが上昇するのです」

いわゆる「火事場の馬鹿力」は、まさにノルアドレナリン効果だ。ただし、活性化しすぎると強い不安感や緊張感からいわゆるテンパった状態になり、むしろ意欲や注意力の低下を招く。先のヤーキーズ=ドッドソンの法則が逆U字曲線を描くのはそのためだ。