──『LOVE理論(新装版)』などに比べると、今回の本では著者である水野さんの個性や意見は出ていないように感じました。
【水野】本の主人公は著者ではなく読者だと僕は思っています。「自分を見てくれ」が本を作る目的ではありません。伝えたいメッセージはもちろんあります。今回は「大事な言葉を身近なところに置こう」ですね。でも、僕のエピソードや言葉だけでは多くの人にメッセージが届かない。犬や猫、偉人の力を借りる必要がありました。
今回の本は特定の読者を想定していませんが、あえて言うと「ある仲の悪い家族全員」がターゲットです。「全然好きじゃない親父が買ってきた本なのに感動した」と息子に思ってもらいたい。一冊の本で家族全体を撃ち抜きたいのです。「うちの親父にはわからない。だからこそいい」というマニアックな方向は目指しません。そのためには、著者という「毒」をいかに消すかが勝負でした。
男性向けの恋愛マニュアルである『LOVE理論』はターゲットが絞られているので毒を出したほうがいいと判断しました。いま執筆中の『スパルタ婚活塾』(仮題)も同じです。「おい、そこの貧乳。いま、お前に話しているんだ」なんて随所で書いています。恋愛や婚活は、上から目線で意見を言われたほうが気持ちいいからです。
僕は自分を殺してでも読者を喜ばせたいと思っています。ただし、著者が好きなことを生き生きと書いていると基本的には読者も喜びますよね。楽しく歌っている歌手のほうが見ていて爽快なのと同じです。だから手段として「好きなこと」を選んで書いています。
──そこまで読者を意識すると、自分らしい言葉を失う恐れはありませんか。
【水野】それは読者というお客さんに対する意識が足りないからではないでしょうか。「お客さんはこんな言葉を求めている。だからこれでいい」というのは逃げでしかありません。
お客さんは常に意外性を求めています。いい意味で期待を裏切ってくれるようなもの、新しいもの、すごいものを見せて驚かせてもらいたがっているのです。読者を本当に意識すると、言葉に対してすごくシビアになっていきます。もっと「いい言葉」があるのではないかと、ひたすら考えるようになるはずなんです。