チームで取り組む新商品づくり

とはいえ、やはり大事なのは商品ということになります。1987年、私が関東支店で群馬県の営業をしていたときでした。その年の2月に発売されたライバルメーカーの辛口ビールが大ヒット。それを機に、得意先のシェアがどんどん下がっていったのです。ずっと贔屓にしてくれていた顧客が「佐藤さん、これまでどおりキリンを置いてやりたいけど、お客の要望が強烈で、今度ばかりはどうしようもない」と申し訳なさそうにいいます。その現実を目の当たりにして「やっぱり商品力なんだ」と感じた瞬間です。

そこで私は「みずからの手で消費者をうならせるビールをつくりたい」と思い、商品企画部への異動を打診し続けました。しかし、それがとんでもない思い込みだったと気づくまでには時間はかかりませんでした。ヒットを生まなくてはと焦るほどに、負のスパイラルに陥りました。ライバル商品を意識し過ぎて、発想がそこから抜け出せず、消費者や時代が求めているものをまっすぐに見られなくなっていました。こんな私の苦境を打開する転機になったのが、上司から伝えられたドイツ視察でした。

ハイデルベルグという北の街から入って、ミュンヘンに向かったのですが、さまざまなビールを飲み、そこの職人と語り合うことで、自分が持っていたビールの概念がいかに狭かったか気づきました。それに加え、ひとつのブルワリーで醸造の工程を一気通貫で体験できたことは大きかった。鳥瞰図的な発想で商品開発を見直すことができ、目の前が開けた気がしたものです。

同時に、ツアーに同行してくれた醸造技術者やアートディレクター、広告代理店の社員、マーケッターたちと交流するなかで、商品づくりにはチームで取り組むべきだという私のスタイルが生まれるきっかけになったのです。

佐藤章(さとう・あきら)
1959年、東京都生まれ。早稲田大学法学部卒。82年キリンビール入社。97年キリンビバレッジ商品企画部主任。2007年キリンビール営業本部マーケティング部長、11年九州統括本部長、12年キリンビールマーケティング執行役員九州統括本部長を経て、14年キリンビバレッジ社長に就任。
(構成=岡村繁雄 撮影=澁谷高晴)
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