春は人事異動の季節。昇進して部下を率いることになった、部下の数が増えたという方も多いでしょう。彼らを導き、チーム・組織の成果を挙げるにはどうすればいいか。今回はこれからのリーダーシップのあり方について考えます。

さて、この連載では欧米を中心とした世界の経営学の知見を紹介してきましたが、そこではリーダーシップについても多くの研究が行われています。その大半は、心理学を使っての理論分析と、実験やサーベイ・データ、あるいはリーダーの発言そのものをデータ解析するなどした統計手法を用いています。「リーダーシップ」というと情緒的に聞こえるかもしれませんが、実際には科学的な探求がされているのです。

このような研究の積み重ねにより、世界の研究者のあいだでは、リーダーシップには主に2種類あるということがコンセンサスになってきています。

その一つは「トランザクティブ・リーダーシップ」といいます。部下の意思を尊重し、部下が成功すればきちんとそれに報い、失敗すればそれに対処するという、まさに取引(=トランザクティブ)のように部下を使いこなすリーダーシップです。「アメとムチ」をうまく使い分けるタイプのリーダーシップといってもいいかもしれません。

そしてもう一つのタイプを「トランスフォーメーショナル・リーダーシップ」といいます。こちらが重視するのは、「部下の啓蒙」です。部下を啓蒙し、その気持ちを前向きにすることで、組織に変革(=トランスフォーメーション)を起こすタイプです。

さらに、トランスフォーメーショナル・リーダーには4つの資質が必要なことも、研究でわかってきています。それは(1)組織のビジョン・ミッションを明確に掲げ、部下の忠誠心を高める、(2)ビジョンを通じて事業の将来性や魅力を表現し、部下の意欲を高める、(3)新しい視点を次々に提示し、部下の好奇心を刺激する、(4)部下一人ひとりと真摯に向き合い、その成長を後押しする、の4つです。

世間一般によく「カリスマ型」という表現が使われますが、実は経営学でも「カリスマティック・リーダーシップ」という概念があります。そして、それはこのトランスフォーメーショナル型に近い意味合いで使われているのです。