鉄道開業以来、急速に発展するラサ
初めてチベットを訪問した。死ぬまでに絶対に行きたい場所のひとつだった。首府ラサの標高は3650メートルと富士山の9合目と同じ。今回の訪問先には標高4000メートルを超えるところもあった。高山病がいささか心配だったが、朝起きたときの手の痺れとシャワーを浴びるときのめまい以外はなんとか乗り切った。
中国・成都から飛行機で約2時間。チベット自治区の首府・ラサに到着する。外国人がチベットに入るには入境許可証が必要だ。空港では別室に連れていかれ、審査を受ける。驚いたのは、僧侶たちも私たち外国人同様別室に連れていかれ、審査を受けている。僧侶がこうした扱いを受けるのを私は初めて見た。
ラサは今、急速に発展している。以前はチベット族主体の街だったが、今では人口50万人の半数以上を漢族が占める。チベットに隣接する四川省をはじめ中国の他の都市から人が流入している。これから成長が期待できるラサでは仕事が見つかりやすいからだ。
ラサの西側には漢族の街が出現している。他の中国の都市と同様に、高層ビル、ショッピングセンター、高級住宅街などが次々に建設され、チベットに似つかわしいとは思えない観覧車まである。
2006年7月に青海省のゴルムドとラサを結ぶチベット鉄道が開業してからは、観光客も急増している。年間の観光客数は500万人を突破した。その大半は経済的に豊かになった漢族だ。鉄道開業以来、80を超えるホテルがラサ市内にオープンした。近代的な五つ星ホテルがいくつも建設中だ。
ラサには約2000人の通訳兼ガイドがいるが、その内1000人以上は中国語の通訳だ。日本語の通訳はわずか20人にすぎない。
ラサ郊外も建設ラッシュだ。高速道路や新たな鉄道の建設が行われ、広大なキャンパスを持つ大学も建設されている。
しかし、ラサと地方をつなぐ舗装もされていない街道では、貧しい農村から五体投地を繰り返しながら何年もかけてラサを目指す巡礼者を何人も見かける。彼らに観覧車は必要ない。
チベットではこれまでに大規模な暴動が何度も起きている。僧侶たちによる抗議の焼身自殺も後を絶たない。13年にも2人の僧侶が焼身自殺をした。ラサ市内では中国の公安がいたるところで目を光らせている。
チベット族は世界全体で約600万人。チベット自治区内に居住しているのは200万人ほど。チベット族が経済的に豊かになることは大切なことだ。しかし、それは彼らの伝統、文化、そして何より自治が担保されたうえでのバランスある発展でなくてはならない。