地域特産物とのコラボレーション
東京出身の私が、キリンビールマーケティング執行役員の立場で九州を担当した経験は小さくありません。九州統括本部のある福岡県を皮切りに、沖縄まで全県に足を運んで実感したのは、それぞれの地域の持つ“地鳴り”のような底力でした。各県の名だたる農産品を生み出している生産農家とキリンがコラボレーションすれば、相互にメリットのある思い切った商品開発が可能になるでしょう。うまくいけば「東京より面白いものができるかもしれない」と思いました。
その事業化の一例が『氷結ストロング沖縄産シークヮーサー』です。これは大宜味村の村長さんとの出会いから誕生しました。原料の生産には限りがありますから、どうしても期間限定商品になってしまいます。本来なら地産地消的な果物が全国区になっていくということで、地元では大変な盛り上がりと聞いています。実は九州には、こうした新フレーバーとしての可能性を持つ農産物がたくさんある。最近発売した同商品の『氷結ストロング宮崎産日向夏』も、地元JA宮崎経済連(宮崎市)との共同作業です。
思えば、県や市町村ごとに特産品を育てる「一村一品運動」は大分県からはじまったと言われています。1979年に、当時の平松守彦知事が提唱し、関アジ・関サバ、豊後牛、カボスなどのブランド化に成功しました。この運動は80年代に入ると、地域振興策のモデルとして全国的に広まりましたから、地元である九州には、そのDNAがいまも色濃く残っているのだと思います。今後も、ヒット商品が生まれる可能性は高いでしょう。
こうした商品開発は、いってみれば異種格闘技です。キリンの社内メンバーだけでやっていると、組織や業界の因習にとらわれ、視点が近視眼的になりがちです。ところが、まったく異分野の人たちが加わることによって、そこには思いもよらぬ“化学反応”が起きます。とりわけ、地域特産物とのコラボレーションは、受発注の関係ではなく、お互い対等な立場だからこそ遠慮のない意見の交換が可能です。