人間がしゃべっているときには、脳の中のふたつの部分が同時に活動している。ひとつは運動野で、口の周辺の筋肉に向かって「動け」と命令を出している。もうひとつは言語中枢で、こちらは「こういう言葉をしゃべれ」と内容に関わる命令を出している。
会話に興が乗ってくると、ほとんどの人が秘密を暴露したくなるものだが、心の中で「これをしゃべるのはマズイ」と思うと、運動野から「しゃべるのをやめろ」という命令が口の周辺の筋肉に向かって出る。ところが、言語中枢のほうは興が乗っているのだからしゃべるのをやめたくない。このふたつの矛盾する命令が、葛藤を引き起こす。そしてこの内面の葛藤が、口を閉じるでもなく開くでもない、手で口を半分被うような中途半端なしぐさとして表れてくるのである。
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などと突っ込んだ質問をしたとき、相手が口を半分被ったり上唇をつまんだりしたら、それは本当のことを口にしかけているサインである。言い換えれば、こうした「身づくろい」は、相手が心を開きかけている証拠でもあるのだ。
【口の端っこをさわる】話し終えた後、無意識に利き手で口角のあたりをさわるのは思わず本音を言いそうになったから。本音を口にしたいが我慢しなければという思いとの葛藤が引き起こす。
【眉間に手をやる】不愉快になったときに生じる眉間の縦じわなど、眉の周辺には感情が表れやすい。人に見られたくない表情を無意識のうちに人目に触れないようにガードしている場合が多い。
【上唇に手をやる】人は嫌悪を感じると、上唇がまくれるように持ち上がり、見るからに不快な表情となる。相手の視線にその表情が触れないよう無意識のうちに行っているしぐさである。