礼を失しない範囲での「コスプレ」

元参議院議員 田村耕太郎氏

昔からファッションには関心がありました。今、スーツは250着ほど持っていますが、シーズンごとにすべてオーダーメードで10着ずつ仕立てています。体にフィットしない服は格好悪いですし、派手な服もたくさん持っています。

中東のアブダビに鳥取のスイカをつくる技術を紹介するプレゼンテーションには、スイカをイメージしてもらうために、赤のスーツに黒のドットのネクタイ、緑の靴で臨みました。その格好で皇太子に謁見し、直接スイカをお渡ししたのです。この様子がアブダビのテレビで放映されると、翌日には日本から運んできた鳥取産のスイカが、スーパーで1個3万円もの値をつけて、即日完売しました。

同じく中東のドバイで、同国の金融市場の関係者に日本の市場を紹介するために、政府を代表する立場で講演を行ったときのことです。ちょっと勇気が要りましたが、スーツだけでなく、靴下もネクタイも、全身ゴールドのものを身につけて臨んだのです。ふつうの格好をしていれば、プレッシャーを受けることはありません。なぜ、わざわざ好んで派手な格好をしたのか。

ぼくが狙うのはまずは逆効果、つまり「相当なバカがやってきたな」と思われるよう服装で演出することです。初めから相手の期待値を思い切り下げておく。その後、きちんとしたスピーチをすれば、普通の格好では印象に残らない話が「なんだ、こいつ中身はちゃんとしているじゃないか」という印象を与え、評価がぐんと上がります。講演が成功したかどうかは、講演後に名刺交換に並ぶ列の長さで決まりますが、このときは閣僚級の政治家やCNNのアンカーなど世界からそうそうたる講演者の方々が来ている中で、ぼくの前に長蛇の列ができました。

どちらも、言ってみれば礼を失しない範囲での「コスプレ」です。インパクトは強烈なので、数年経って再訪しても、みんな覚えていてくれます。完璧な美人が意外と記憶に残らないように、バランスが完璧だと逆に印象に残りにくい。だから、愛嬌のあるバランスの崩し方をいつも心掛けています。でも、調子に乗って「好感を落とす」ことにならないよう気をつける必要がありますが、そういうことも正直なところたまにはあります。